研究課題
我々はこれまでがんにおける好気的解糖をMR法で解析してきた。MR法はがんの糖代謝をFDG-PETなどグルコースの取り込みにより代謝経路の入り口だけで評価するのではなく、解糖系入り口から途中の経路を経て最終出口までグルコースの取り込みとその代謝産物である乳酸を含むグルコース代謝の全貌を評価する方法であり、がん代謝の特質を理解する上で適している。そこで、アルツハイマー病の脳内でも好気的解糖が働くという報告がされており、同じMR法を用いて脳内の解糖系を精査し、そのグルコース代謝と病態との関連が調べた。実験では、アルツハイマー病モデルマウスを用い脳内糖代謝をMR法にて解析した。また、アルツハイマー病と糖尿病との関連、ことにインスリン抵抗性との関連が指摘されており、当該病変におけるグルコース代謝に対するインスリンの影響、ならびに、血中グルコース濃度と脳代謝産物との関連をもあわせて調べた。アルツハイマー病のモデルマウス(3xtg-AD)の脳においてH-1 NMRスペクトルを測定すると、好気的グルコース代謝の最終産物である乳酸が観測された。この乳酸信号強度は、3ヶ月から2年にわたるどの週齢いおいても、対応するコントロール群より優位に高く、この高度な乳酸レベルはアルツハイマー病脳における代謝反応の特質の一側面であると推定される。また、この脳内乳酸の由来を調べるために、マウスに乳酸を投与したところ、これまでに知られている乳酸の取り込みよりも著しく早い脳内への取り込みが明らかとなった。このような乳酸の挙動は血中の乳酸が信号となり脳内のエネルギー代謝に影響を及ぼすことから、癌のそれと類似するとともに、アルツハイマー病脳のエネルギー代謝が特異な挙動を示すことが示唆され、グルコースに代わる乳酸やケトン体を含めエネルギー源全体の役割を解明する必要がある。
27年度が最終年度であるため、記入しない。
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Ageing Res Rev.
巻: 15 ページ: S1568-1637
10.1016/j.arr.2015.12.008