本研究ではMRI撮像を超低磁場で実現することにより,他の様々な計測手法とのマルチモダリティ計測を可能とし,認知症などの高次脳機能に関わる疾患の診断支援や治療効果を定量的に評価できる新規医用イメージングシステムを開発することを目指して研究を進めてきた. 本年度は,まず我々が世界に先駆けて開発したK原子とRb原子を混合したハイブリッド型の光ポンピング原子磁気センサの性能向上に関する研究を進めた。このハイブリッド型原子磁気センサは,K原子を直接ポンピングする代わりにRb原子をポンピングし、Rb原子のスピン偏極をK原子とRb原子のスピン交換衝突によりK原子に移すことにより計測系のノイズ低減を行うことができるという特徴を有している.本年度は,スピン偏極の空間的均一性向上に向け,スピン偏極の振る舞いを記述する光学的ブロッホ方程式に基づく詳細なシミュレーションを行い,K-Rbハイブリッド型原子磁気センサによりスピン偏極の高い空間的均一性を実現できることを示した.また,このハイブリッド型原子磁気センサを用いた一つのセル内における多点同時計測法を提案し,実測によりその有効性を示す事ができた. さらに本年度は,光ポンピング原子磁気センサによるMR信号の直接計測手法の検討を進め,モジュール型センサによるMR信号計測の新たな手法の提案を行い理論と実験によりその妥当性を示した.加えて,超低磁場MRIにより超偏極キセノンガスをイメージングすることを目的として,新たな撮像パルスシーケンスであるSWIFT法に関して理論的な検討を進め,シミュレーションによりその実現可能性を示す事ができた. 最後に,高次脳機能を反映する神経活動を捉えることを目的に視覚刺激の呈示時における誘発応答の計測に挑戦し,原子磁気センサを用いた脳磁図と脳波の同時計測を世界で始めて実現した.
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