DNA損傷は遺伝子変化や染色体異常の誘因となり、これらの蓄積が老化や発がんと関係している。損傷した遺伝子ゲノムはDNA修復分子群によって補修されるが、そのメカニズムは複雑でまだ完全には解明されていない。本年度は紫外線や活性酸素刺激のほか特定の食物成分によって、特に発がんと関連するmRNAがどのように変化するのかを網羅的に検討した。さらにリアルタイムPCRを用いて検討し、誘導されるRNAを解析してDNA修復機構との関わりを検証した。その結果、これまでに検討してきたRad51などに加え、NOS1やNOS2、NANOSやAsporinが食成分刺激によって遺伝子発現が変化しうることを示した。例えば、K562細胞、Daudi細胞において、D-セリン刺激によるタンパク質レベルでのAsporin発現量の変動を確認した。K562細胞においては48時間後に、Daudi細胞においては刺激後47時間後に最もAsporin発現量が上昇していた。一方、AsporinのmRNA発現量は刺激後24時間においては、K562細胞、Daudi細胞ともに減少が認められた。また、K562細胞においてはカルシウムイオン添加時にAsporinの発現量の増加が顕著であった。このほかPAI-1、t-PA、Smad2、Smad3もD-セリン刺激のカルシウム添加によるエピジェネティックな機序により発現が変動していた。これらの結果より、D-セリンおよびカルシウムはがん抑制に関与するシグナル伝達系分子の増減を介してがん細胞の増殖に影響を与える可能性が示唆された。一方タンパク質レベルでのTob1発現量は、K562細胞においてはカルシウムイオン非添加時に上昇した。反対にDaudi細胞においてはカルシウムイオン添加時に上昇した。Tob1 のmRNA発現量はK562細胞、Daudi細胞ともにカルシウムイオン添加時に大幅に上昇した。
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