研究概要 |
本研究では、栄養シグナルによる幹細胞特性制御という観点から、がんの成り立ち、悪性進展メカニズムを理解することを目標とした。本年度は、栄養センサーの中心的役割を果たすmTORシグナルの様々な血球細胞分化における役割、またそれらの細胞を起源とした腫瘍における役割を検討した。成体Raptor欠損マウス(Raptorf/f CreER)にタモキシフェンを投与し、骨髄細胞の細胞表面抗原解析を行うと、骨髄細胞系分化細胞である好中球の分化異常、B細胞未分化な集団(B220low/IgM- cells: early B cell precursors, pro/pre-B cells)の減少が認められた。一方、リンパ球系前駆細胞(common lymphoid progenitors: CLP)、好中球マクロファージ前駆細胞(granulocyte-macrophage progenitors: GMP)は増加傾向を示した。骨髄細胞では、分化抗原陽性細胞では、アポトーシスの上昇が観察されたが、未分化細胞では影響を受けていなかった。細胞周期の異常は認められなかった。以上の結果より、mTOR複合体1は、B細胞や骨髄球系分化細胞での生存に必須であるが、未分化前駆細胞では必須ではないことが明らかとなった。未分化前駆細胞あるいは骨髄球系前駆細胞が起源として腫瘍化している急性骨髄性白血病においても、mTOR複合体1の失活により、比較的分化形質を示す白血病細胞では細胞死が誘導されるが、未分化な白血病幹細胞はその生存に影響が見られないことが判明した。このことから、正常組織および腫瘍の双方において、mTORシグナルと分化プログラムの間の関連性が保たれていることが推察された。以上の結果は、がん動態と細胞分化の接点を理解する上で貴重な知見となった。
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