研究課題
基盤研究(A)
本研究では,西部北太平洋亜寒帯及び亜熱帯海域の時系列観測定点において,微生物群集構造の季節的な変動と,これら微生物群集が持つ代謝機能の多様性や特徴を明らかにすることを目的とした.全6回の「みらい」航海によって,亜寒帯K2及び亜熱帯S1の観測点で異なる季節に採集された微生物群集DNA試料のうち,予備解析として夏と冬の試料を用いて,16SrRNA遺伝子クローンライブラリ法による細菌及び古細菌群集構造解析を行った.夏冬それぞれ2点,3層(0, 300, 2000m)の水を,付着画分と自由生活画分に分けた全24試料について,細菌と古細菌群集の解析を行った.約1000クローンの塩基配列を決定した結果,細菌群集は12門(272 OTUs)に分類された.自由生活画分で顕著に見られたのは,SAR11系統群で,S1とK2の両観測点の全水深から検出された.一方,付着画分の優占微生物種は水深によって異なっていた.古細菌群集は,2門に分類され,Euryarchaeota門MG2系統群は表層で大きな季節変動を示し,MG3系統群は付着画分で多く見られた.また,本研究により,海洋表層から深層における自由生活画分および付着画分の微生物群集構造や多様性が,冬期と夏期で大きく変動することがはじめて明らかとなった.以上の成果は,本年3月のブルーアースシンポジウム及び海洋学会シンポジウムで発表し,さらに9月の国際会議(水圏微生物生態学シンポジウム)で発表予定である.また,メタゲノム代謝・複合系モジュ-ル解析についても解析手法の検討を進め,共同研究者が外部からデータにアクセスすることが可能なグラフィカルユーザーインターフェイスなど,解析システムの構築を行った.
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画では,454パイロシーケンサーを用いた16SrRNA遺伝子ディープシーケンス及びメタゲノム解析について,本年度に方法論的な解析を行い,次年度に本格的な解析に着手する予定であった.方法論的な検討が順調に進んだことから,本年度にサンプル調整と実際のシーケンスまで前倒しで着手することができた.
(1)16SrRNA 遺伝子PCR 増幅,ディープシーケンス:春夏秋冬の航海で,観測点2 点,5 層,付着画分,自由生活画分があるため,DNA解析用試料は80サンプルとなる.これらの試料よりDNA を抽出後, 細菌と古細菌それぞれについて16SrRNA 遺伝子ディープシーケンスを行うことにより,微生物群集構造の季節的な変動を明らかにする.(2) メタゲノム代謝・複合系モジュ-ル解析:上記4 回の航海で得た表層海水試料のメタゲノム配列解読,モジュ-ル解析を本格的に実施する.DNA抽出後,ロッシュ社製の454シーケンサーを用いて配列解析を行う.454では1回の分析で500-600塩基の配列が120万リード産出されるが,これを4分割で2回分析し,各サンプルにつき60万リードのデータを得る.産出された配列データのアセンブル,遺伝子配列予測,完全長もしくは部分遺伝子の場合は30アミノ酸(90塩基)以上の遺伝子をKEGG代謝・複合体モジュール解析に供する.予測された遺伝子配列が,一連の代謝反応を構成する遺伝子群(モジュール)をどの程度充足しているかを計算する.モジュール遺伝子が全て存在すれば(代謝充足率100%)、その代謝機能を担う微生物が存在すると判断できる.さらに、各モジュールを充足した遺伝子の由来生物種を調べることができるので、同じ代謝を担う生物種の違いにも着目した解析を行う.
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件)
BMC Genomics
巻: 13 ページ: 699
10.1186/1471-2164-13-699