研究課題/領域番号 |
24241010
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
濱 健夫 筑波大学, 生命環境系, 教授 (30156385)
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研究分担者 |
和田 茂樹 筑波大学, 生命環境系, 助教 (60512720)
中山 剛 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (40302369)
笹野 大輔 気象庁気象研究所, 海洋・地球化学研究部, 研究官 (10462524)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 海洋酸性化 / 微細藻類組成 / サイズ組成 / 炭酸系 / 光合成生産 |
研究実績の概要 |
沿岸域における酸性化の進行状況と微細藻類に対する影響を評価するため、以下の項目について研究を実施した。 1)静岡県下田市の筑波大学臨海実験センターの沖合(推進約50 m)において、pH、二酸化炭素分圧等の炭酸系のパラメーターおよび微細藻類の組成、さらに13Cトレーサー法による光合成生産量の測定を実施した。平成25年度から引き続き、毎月1回の頻度で、平成26年10月まで実施した。全炭酸濃度は、春季から夏季にかけて低下したが、これは主として微細藻類の光合成によることが明らかとなった。微細藻類の現存量は、冬季から春季、夏季にかけて増加した後、夏季から秋季に減少した。微細藻類の組成とpHの関係から、pHの増加時にはシアノバクテリアが増加する傾向にあった。しかしながら、微細藻類の季節的変動は、溶存態無機窒素・リン等の栄養塩濃度に強く関係していることが示唆された。 2)沿岸域におけるpHの変動を把握するため、pH計、塩分計、光量子計等を年間を通して設置し、時間-季節スケールでの情報を得た。pHの変化は、同時に測定した光量子の変化と良く似たものであり、日中のpHの増加が光合成によることが明確となった。光量子とpHとの相関から、夏季に比べ冬季には低光量子下でpHの変化が大きく、光強度に対する光合成の応答が、夏季と冬季とで異なっていることが示唆された。 3)酸性化のキースピーシーズとして特定したプラシノ藻のMicromonas属(酸性化により増殖促進)とハプト藻のChrysochromulina属(酸性化により増殖阻害)の2グループについて、室内培養系確立の検討を行った。 4)平成24、25年度に行った大型培養実験の結果をまとめ、54回 Estruaries Coastal and Shelf Sciance Meetingにおいて発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)下田沖で実施している炭酸系および植物プランクトンの観測に、13Cトレーサー法を用いた光合成速度の測定を組み込む事ができた。これにより、微細藻類の光合成により利用される炭素量を算出することが可能となった。この光合成による炭素取り込み量と海水中の全無機炭素量を比較することにより、海洋表層の炭素収支を見積もることができた。炭素収支は海洋表層のpHの変動を理解するために、非常に重要な情報である事から、沿岸域における炭酸系の変動の解明については、当初の目的を達成したものと考えられる。また、微細藻類の量的、質的変化においても昨年までの情報と合わせ3年間の情報を蓄積することができ、pHとの関係を評価するために十分な情報が得られたものと思われる。 2)沿岸域におけるpHの連続測定については、本年度中途において、pH計で測定値が一定方向に変化する現象(ドリフト現象)が生じていることが分かり、従来のpHの絶対値を補正する必要が生じた。このため、本年度は化学分析によりpHを決定する手法を追加した。これにより、係留したpH計による測定値も補正することが可能となり、pHの絶対値についても信頼性を増すことが可能となった。 3)沿岸の日オーダーのpHの変化が、夏季に比較して冬季において大きい減少については、まだその理由は明確となっておらず、今後の課題として残っている。 4)酸性化におけるキースピーシーズとして特定することができたプラシノ藻のMicromonas属(酸性化により増殖促進)とハプト藻のChrysochromulina属(酸性化により増殖阻害)の2グループについて、酸性化の影響を受ける生理・生化学プロセスを検討するため、両グループの室内培養系の確立を進めており、次年度の実験に向けた準備がほぼ完了した。
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今後の研究の推進方策 |
1)沿岸域におけるpH等の炭酸系の変動について、様々な時間スケールの観測を引き続き実施する。また、本年度は、藻類の現存量の違いを反映して、炭酸系の変動様式が空間的にどのように異なるのかをあきらかにするため、面的な観測を実施する。また、昨年度の研究でpH計にドリフトが生ずることが明らかになったため、pH計による測定だけではなく、採水した試料について化学分析によるpHの測定も合わせて行い、pHの絶対値に関する信頼性を高める。 2)大型培養器の実験を通して、キースピーシーズとして特定できた2グループの微細藻類の室内培養系を用いて、酸性化に対する応答を詳細に検討する。このため、二酸化炭素濃度を変えてpHを調整した培養系を準備し、細胞数の増加を指標として、両グループの藻類の増殖速度を測定する。また、各条件下における形態学的特徴、光合成色素組成、細胞サイズ組成などを明らかにすることにより、増殖速度に影響を与える要因について検討する。 3)本研究期間を通して行った、炭酸系と微細藻類の季節的変化と炭素収支、pHの連続測定によるpH変動の特性とその要因、酸性化に対する微細藻類の応答、の3項目に関して、得られた情報を整理し、海洋酸性化が微細藻類への影響を評価すると共に、その気候変動に対する影響を考察する。 4)得られた成果について、国内、国外学会において発表を行うと共に、複数の論文にまとめて投稿する。
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