本研究の目的はこれまで量子計算で提案されたような単一量子の|0>と|1>の重ね合わせによる2準位系量子ビットを基礎にした量子情報ではなく、集団の量子系を生かした量子情報処理の実証を目指すものである。本研究では半導体のナノ構造に閉じ込められた電子の電荷やスピン自由度、あるいは半導体を構成する核スピンの自由度を媒体として光学的、電気的制御検出を実現する。 初年度は測定用デバイスの作製と測定系の立ち上げなどを中に研究を進めた。購入した半導体ウエハをナノ構造にプロセスし基礎的物性を調べた。測定の結果整数量子ホール効果などが発現することが確認され、必要最低限の品質が保証されていることが分かった。次に、分光分析用の液体窒素冷却CCD検出器を購入し、数10ミリケルビンという極低温強磁場下で動作可能な顕微分光測定を構築した。量子情報処理の実証を行うために必要な物性物理の理論的裏付けを確かなものにするため、既存のデバイスを用いて、分数量子ホール効果のイメージングを行い、成果を論文や特許にまとめた。この成果はこれまで不可能であった極低温強磁場下での多体電子系の可視化を可能にするものであり、物性物理そのものの重要さも認められ、招待講演や新聞発表なども行った。 量子フィードバックを用いた電気的制御による量子プロトコルの検証実験に関しても研究を進めた。特にデバイスを実装するために、理論研究を行っている研究者と頻繁に議論を行い、デバイスパラメータの最適化を進めた。これは次年度以降実際にデバイスを作製する上で重要なステップである。
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