研究課題/領域番号 |
24241045
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
齋藤 直人 信州大学, 先鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所, 所長/教授 (80283258)
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研究分担者 |
加藤 博之 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (40204490)
佐々木 克典 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (30170666)
樽田 誠一 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (00217209)
宇田川 信之 松本歯科大学, 歯学部, 教授 (70245801)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノ機能材料 / ナノ粒子 / ナノチューブ |
研究実績の概要 |
本年度から、基盤研究で重要なものを更に高度化すると共に、テーマを絞った応用研究に移行した。まず基盤研究として、CNTの分散剤による影響を検討した。細胞にCNTを暴露した場合、gelatinで分散したCNTだけが細胞増殖抑制を示し、FBSやCMCで分散したCNTは増殖が促進した。Gelatinでは、分散しきれていないCNTの凝集体に細胞が接着することによって、見かけ上細胞増殖が抑制されていることが分かった。また、リンパ管内のCNT通過を評価する方法を構築した。リンパ管を摘出して外腔および内腔に灌流を行い、特有の生体反応である連続的自発性収縮を起こす実験条件を検討した。また内腔に流れるナノ粒子の動態イメージングを、蛍光顕微鏡で捉える実験系を構築した。更に1本のCNTを1個の細胞に作用させる技術開発を進めた。1本のCNTを把持する機器の改良や、実験系の最適化を検討した。把持したCNTを1個のraw細胞に接触させ観察した。次に応用研究として、CNT単独で立体構築し、力学的強度を高めたブロック体を作製した。このCNT ブロック上での細胞接着性は高く、rhBMP-2を添加し筋に埋植するとブロックに密着して骨形成が認められ、その骨量はコラーゲンシートを用いた場合と同等であった。このCNTブロックはスペーサーとして骨欠損部を充填し、かつ骨再生を誘導するBMPのscaffoldとして機能することが期待できる。また、複数のCNTを同心円状に積層して多孔質形状に形成し、薬剤徐放性試験・蛋白吸着試験・蛋白放出試験などを行った。細胞増殖試験および骨欠損修復試験では、対照群より良好な結果が得られた。一方、CNTに抗癌剤を付加して癌に作用させる研究に着手したが、CNT を粒子としてDDS に用いた場合の安全性が不確実なため、カーボンナノホーンに変更して研究を進めることとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
基盤研究として、分散剤の影響として、生体内でCNTに結合すると想定される血清で分散させたCNTで骨芽細胞の増殖促進が見られ、in vivoでのCNTの骨石灰化促進効果の1つの理由として細胞増殖促進であることを明らかにした。さらに生体の結合組織の主要成分であるコラーゲンの低分子化したgelatinで分散したCNTで細胞親和性を高めていることが明らかとなった。一方、分散剤で分散しきれていないCNTの影響が明らかになり、分散状態の影響の検討が重要である。当初計画になかったリンパ管内のCNT通過を評価する研究は、研究過程でその重要性が明らかになったため追加した。in vitro摘出組織系を用いた手技と実験システムの構築により、今後様々なナノ粒子・マイクロ粒子の脈管内送達イメージングが期待できると共に、バイオマテリアルが脈管系の生体反応・組織・細胞レベルにおいてどのような影響を及ぼすか解明する、新規の生体内安全性評価法を確立することができた。また、1本のCNTを1個の細胞に作用させる技術開発を進め、1本のCNTを把持する精度を高めることができた。その結果、1本のCNTを把持して1個の細胞に作用させる段階まで成功した。 応用研究として、CNTをブロック状に成型し強度を高めた固体状のブロックおよび多孔質化したブロックの両方とも、良好な生体親和性や骨形成能を認め、CNTの骨形成scaffoldとしての機能を評価することができた。更にCNTに抗癌剤を付加して癌に作用させる研究を進めた。以上のように、基盤研究で重要なものを更に高度化すると共に、テーマを絞った応用研究に移行することができた。最終年度に向けて、CNTを応用した高機能生体材料を創製するために、CNTやその複合体が生体に接した際の組織や細胞との界面を探求し、その界面を制御する技術の構築という本研究の目標に着実に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、今年度もCNT開発および材料複合技術開発を、信州大学工学部およびカーボン科学研究所が行う。得られた材料を、信州大学と松本歯科大学において密に連携を保ちながら、生体組織や細胞との界面に着目して研究を進めていく。この際、医学の様々な分野と歯学に分担研究者がおり、それぞれの専門的知識と実験手技を動員・統合して、横断的な新知見を獲得する。得られた結果は随時工学にフィードバックし、生体との界面を制御する高機能生体材料を開発していく。実用化に最も重要な生体安全性は、昨年度同様にCNT・生体界面研究の結果を反映させ、安全性評価を実施する。研究計画の最終的なゴールは、CNTの癌治療に用いるDDS、イメージング等への応用、再生医療に用いるscaffold への応用、外科用インプラントへの応用等のための確固たる基盤技術を構築することである。さらに、CNTの生体材料としての国際的な安全性評価基準を構築して、臨床応用の実現を目指す。 平成26年度までは主として基盤的な研究を実施し、平成27年度からはテーマを絞った応用研究に移行してきた。最終年度である28年度は、これまで行ってきた基盤研究で重要なものの成果を可能な限りまとめ、例えば1個のCNTを1個の細胞に作用させる技術を実用化する。また応用研究では、ナノ界面制御能を持つ安全な高機能生体材料創製を高度化し、革新的な技術開発を達成する。特にCNTを足場材として骨組織を再生する研究などを引き続き重点的に実施する。また、昨年度まで経産省ナノ安全性プロジェクトで開発してきたイメージングシステムを、本年度は本事業で更に発展させる。一方、基盤研究として行ってきた複合材料技術や安全性評価技術を反映させて本事業から派生したCNT複合人工関節は、昨年度からAMED医療機器開発推進研究事業で開発を進めており、初のCNT応用生体材料の臨床応用実現を目指す。
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