研究課題/領域番号 |
24241056
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
稲垣 敏之 筑波大学, システム情報系, 教授 (60134219)
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研究分担者 |
芳賀 繁 立教大学, 現代心理学部, 教授 (10281544)
池田 良彦 東海大学, 法学部, 教授 (60212792)
小松原 明哲 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80178368)
高橋 宏 湘南工科大学, 工学部, 教授 (80454156)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ヒューマンファクター / システム安全 / レジリエンス / リスク環境 / 法的責任 |
研究概要 |
本研究は,想定外リスク環境下でも交通移動体の安全確保が可能なレジリエンスを備えた多層的安全制御システムの開発と,時間・情報制約下での人の認知・判断の特性を踏まえた刑事過失責任に関する新しい法理論の提案を目指すものである。そのために,全期間に渡って三つの研究アスペクト(ヒューマンファクター,エンジニアリングデザイン,権限と責任)を設け,個別目標を定めて研究を遂行することにしている。平成25年度の研究成果は以下のとおりである。 ヒューマンファクター研究アスペクトでは,2011年3月の東日本大震災とそれに伴う津波に際して鉄道乗務員らがとった行動を調査・分析し,緊急時にレジリエントな対応がとれた要因を抽出した。さらに,レジリエントな対応に結びつく態度・スキルを訓練する手法を開発し,鉄道社員に試行して効果を検証した。 また,レジリエンスを実装するに際して,組織が管理すべき要件について検討した。特にチームにおいて,各人のレジリエンス行動のミスマッチが機能共鳴型事故を招くことを明らかにし,当該形態の事故抑止について考察した。 エンジニアリングデザイン研究アスペクトでは,想定外事象発生時にシステム破たんをきたさないようにするためのレジリエントなヒューマンマシンインタフェースの例として,ロボットハンドを通じて人と機械が協調するシステムを提案し,想定外事象発生時の支援情報提示系を設計して上記協調作業システムへインストールした。 権限と責任研究アスペクトでは,自動運転走行中に想定外事象が発生した際,人の判断・制御の余地を残しながらも,機械がその知識・能力の範囲内で最大限の制御を行う双対制御論的システムを開発した。また,刑事過失責任の根拠となる「危険性の予見」について,英米法と日本法(ドイツ法)を比較し,結果回避可能性との間に必要な因果関係の認定方法の違いについて調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を円滑に遂行するために設置した三つの研究アスペクト(ヒューマンファクター,エンジニアリングデザイン,権限と責任)では,それぞれが定めた個別目標を適切に遂行している。具体的には,次に述べるとおりである。 ヒューマンファクター研究アスペクトでは,災害発生時の安全確保ならびに組織管理に関していくつかの実世界問題を取り上げながら,人のレジリエンス行動につなげる訓練手法を開発するとともに,複数人のレジリエンス行動のミスマッチで引き起こされる機能共鳴型事故の防止策の検討を進めることができている。 エンジニアリングデザイン研究アスペクトでは,もっとも身近な交通移動体である自動車の運転支援システムを取り上げ,想定外事象発生時の人と機械の協調を可能にするためのヒューマンマシンインタフェースの一例を設計し,人支援情報提示系の開発も終えている。 権限と責任研究アスペクトでは,想定外事象発生時において,人の創発的判断・行動を優先させる権限委譲を許容しながらも,機械がその知識・能力を最大限に活かして事態へ自律的に対応する双対制御論的権限共有機構の設計開発を完了するとともに,刑事過失責任の根拠となる「危険性の予見」について,結果回避可能性との間に必要な因果関係の認定方法の違いの検討を終えている。 以上のことから,計画はおおむね順調に進展していると判定した。
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今後の研究の推進方策 |
ヒューマンファクター研究アスペクトでは,人・組織のレジリエンスを向上させるための方法論の構築を目指す。すなわち、レジリエントな判断・対応能力を高める訓練を大学生に試行して効果を定量的に評価する。個人および組織のレジリエンスを測定する質問紙尺度を開発し,個人のレジリエンスに及ぼす組織的要因を抽出する。さらに、レジリエンス能力の向上について、個人の具体的資質向上の方策、および組織のレジリエンス度に関わる評価法について考究する。 エンジニアリングデザイン研究アスペクトでは,想定外事象が発生した時でもシステムが破たんをきたさないようにするレジリエントなヒューマンマシンインタフェースをもつシステムの例を実際に構築する。その性能の評価実験ならびにデータ解析から,レジリエントなシステムの普遍的設計手法を考案する。 権限と責任研究アスペクトでは,システム性事故に適用される業務上過失致死傷罪(刑法211条)の業種別類型を調査し、個人責任を問う刑法の限界と、組織責任導入の可能性を探る。また,急速に社会の関心が高まってきた自動運転にも考察範囲を広げ,想定外リスク環境下において機械が「知識の範囲内で最適と考える安全制御方策」を多段的に実行することで事態への応急的対処と人の知識ベース行動を可能にする時間創出を図り,人が「より良い方策」を策定できた時点で機械から人へ権限を委譲する状況適応的かつ双対制御論的な権限共有機構を構築し,機能検証ならびに性能評価を行った上で,システム設計のための知見を取りまとめ,国土交通省,経済産業省,内閣府における自動運転関連プロジェクト等へも研究成果を提供する。
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