研究課題/領域番号 |
24241071
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 矩行 沖縄科学技術大学院大学, その他の研究科, 教授 (30025481)
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研究期間 (年度) |
2012-10-31 – 2015-03-31
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キーワード | サンゴ / 褐虫藻 / 共生 / 成立 / 崩壊 / ゲノム解読 / ゲノム科学的解明 |
研究概要 |
サンゴ礁生態系の成り立ちを理解するためには、その主体であるサンゴの生物学を理解する必要がある。サンゴは刺胞動物の一群であるが、褐虫藻の一種Symbiodiniumと共生関係を保ちつつ生活を維持することと炭酸カルシュウムの骨格を形成する能力をもつという、クラゲやヒドラなどの他の刺胞動物には見られない特徴をもつ。なかでも、サンゴとSymbiodiniumと共生関係の成立とその維持のメカニズムを解明することはサンゴの生物学を理解する上で必須である。 我々はこのメカニズムをゲノム科学的に理解したいと望んでいる。そのためには、サンゴおよびSymbiodiniumの両方のゲノム情報を得る必要がある。我々は2011年に、1998年に沖縄海域で起こった海水温上昇によるサンゴの白化現象(サンゴとSymbiodiniumの共生関係が壊れサンゴが死滅する現象)の中で最も被害の大きかったコユビミドリイシ(Acropora digitifera)のゲノムを解読した(Shinzato et al., 2011, Nature 476:320-323)。そこで本研究においては、まず、Symbiodiniumのゲノムを解読する。Symbiodiniumを含む褐虫藻のゲノムは非常に大きく(2~30 Gb)また特殊であることが指摘されており、解読の必要性が望まれているにも関わらず手がつけれていない。もしサンゴとSymbiodiniumの両者のゲノム情報が得られたら、これらの情報を最大限に活用し、また共生関係を探る新たな実験系を確立しつつ、サンゴとSymbiodiniumの共生の成立・維持・崩壊に関わる分子生物学的メカニズムおよび細胞生物学的メカニズムを徹底的に解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Symbiodinium minutumのゲノム解読: Symbiodiniumは現在クレードAからHまでの8つのグループに大別されているが、サンゴの種とSymbiodiniumの種の間に共生特異性が存在する。上に述べたように我々は2011年にコユビミドリイシ(Acropora digitifera)のゲノムを解読した。このサンゴに共生するSymbiodiniumは主としてクレードCであるが、クレードCのSymbiodiniumはサンゴから単離して培養できないために、このゲノムを解読することは至難である。そこでまず、サンゴの一種Montastraea faveolata共生褐虫藻(クレードBに属する)Symbiodinium minutumのゲノム解読から始めた。 Symbiodinium minutumは培養可能であり、そのゲノムサイズは約1600 Mbと見積もられ、この仲間では最も小さい部類に入る。これまでに、次世代シーケンサーを駆使してゲノムの約37倍量の塩基配列情報を得た。この情報は約620 Mbにアッセンブルされ、RNA-Seqによって得られたmRNA情報を加味すると、S. minutumのゲノム中には約42,000のタンパク質をコードする遺伝子が予測された。Symbiodiniumの遺伝子は多くのイントロンを含み(1遺伝子に平均19個)、またその切出し部位の塩基配列も非常に変わった配列を利用している。さらに、ゲノム内での遺伝子の配列が一定方向に並ぶという、これまでにトリパノゾーマでした知られていない特徴をもつ。また、褐虫藻の核は常にコンデンスした染色体構造をもつことで知らているが、Symbiodiniumゲノム内のコンデンセーションに関わる遺伝子を調べてみると、真核生物と原核生物の両方の特徴を備えることなどが分かった。 現在、論文をとりまとめて、投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
上に述べたように、クレードBのSymbiodinium minutumのゲノム解読をほぼ完了した。今後はまず第1に、このゲノム塩基配列情報を利用しつつ、コユビミドリイシに共生するクレードCのSymbiodiniumのゲノムを解読する。また同時に5月~6月にかけての産卵期にプラヌラ幼生を得て、Symbiodiniumの共生の際のtranscriptome解析を行う。さらには、温度処理によって白化が起こる際のtranscriptome解析も行う。平成25年度は主として、このようなtranscriptome解析を行い、平成26年度に共生関係の成立と崩壊のゲノム科学的解析にもっていく。
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