研究課題
本研究は、RNAの造形力を利用した医薬品探索を目的としたもので、SELEX(人工進化)技術を用いて各種の創薬標的タンパク質に結合するRNA分子(アプタマーという)を創成し、1)サイトカイン阻害薬(アンタゴニスト)の開発、2)受容体作動薬(アゴニスト)の開発、3)細胞内送達(DDS)技術の開発、4)RNA造形力に関する構造生物学的研究、を実施した。平成25年度の研究成果の概要は次の通りである。1)アプタマー創薬は順調に進捗した。抗FGF2アプタマーは、加工を完了して開発候補品を特定し、複数の動物モデルでその薬効試験を実施した結果、骨疾患に対する根本的な予防治療薬となりうることが確認された。東大シーズとして開発した抗NGFアプタマーはモルヒネを代替する新しい疼痛薬として研究開発を進めてきたが、国内製薬メーカーへの導出交渉が進展した。抗IL-17Aアプタマーも製薬メーカーとの共同研究開発に進み、各種の疾患モデルマウスで薬効確認を進めた。2)スクリーニング系として、酵母のフェロモン受容体(7回膜貫通型受容体)をヒトのGPCR 遺伝子に置換した酵母株を用いて、リガンドによるシグナル伝達の惹起をGFPの蛍光検出するシステムを構築して、その性能試験を実施した。3)抗ヌクレオリン・アプタマーを細胞内DDSツールとして改良あるいは新規創製する目的で、既存の抗ヌクレオリン・アプタマーのDDS性能についてはシステマチックな解析を実施した。4)NMR chemical shift perturbation解析によって、抗ミッドカイン(MK)アプタマーとMKタンパク質との相互作用を解析した(理研NMR研究グループとの共同研究)。その結果、我々が提唱してきたRNAアプタマーによるMKタンパク質の全体捕捉‘Whole body capture’モデルを実証することができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究の最重要な目的は、アプタマー医薬品の開発を推進することであり、その視点で、複数のアンタゴニスト・アプタマーが動物で優れた薬効が確認され、予備毒性試験にまで進捗したことは、アプタマー医薬の実現に確実に近づきつつあると評価している。さらに、NMR chemical shift perturbation解析によって、RNAアプタマーと標的タンパク質の相互作用を溶液系で動力学的に明らかにすることができ、かねて我々が提唱してきた「羽交い締め」的な全体捕捉‘Whole body capture’モデルを実証することができた点は、学術的に意義が深い。
研究実績の概要の冒頭で記述したように、本研究はRNAの造形力を利用した医薬品探索を目的としたもので、1)サイトカイン阻害薬(アンタゴニスト)の開発、2)受容体作動薬(アゴニスト)の開発、3)細胞内送達(DDS)技術の開発、4)RNA造形力に関する構造生物学的研究、の4項目をサブテーマとし、その基本方針に大きな変更はないが、計画自体が広範囲にわたるため、今後はサブテーマの絞り込みを進める必要があると考えている。その視点から、項目1)にさらに注力することが重要であると考えている。同時に、本研究はRNAに関する基礎研究と実用化という2輪をバランスよく駆動することが重要だと認識しており、その意味で、項目4)に関する研究をさらに充実させる予定である。
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