研究課題
本研究は、RNAの造形力を利用した医薬品探索を目的としたもので、SELEX(人工進化)技術を用いて各種の創薬標的タンパク質に結合するRNA分子(アプタマーという)を創成し、1)サイトカイン等阻害薬の開発、2)受容体作動薬の開発、3)細胞内送達(DDS)技術の開発、4)RNA造形力に関する構造生物学的研究、を実施した。平成26年度の研究成果の概要は次の通りである。1)アプタマー創薬は順調に進捗した。昨年度までに抗FGF2アプタマーの開発候補品の完成と動物モデルでの薬効確認まで進捗したが、今年度はさらに複数の骨疾患モデルで優れた薬効を確認し、骨疾患に伴う疼痛に対してもモルヒネと同等の鎮痛効果を示すことを確認した。東大シーズとして開発した抗NGFアプタマーはモルヒネを代替する新しい疼痛薬として研究開発を進めてきたが、今年度藤本製薬へライセンス契約が締結され、臨床試験の準備が開始された。全薬工業へライセンスされた抗IL-17Aアプタマーも乾癬での顕著な薬効確認と開発候補品の確定を完了し、臨床試験の準備を開始した。2)受容体の作動作用をもつアゴニスト分子を創製する目的で、FGF受容体に対するアプタマーの分離を行った。それらのFGF受容体結合性アプタマーの中から、リガンド(FGF2)結合を阻害しない性質を示すアプタマーを選別した。選別したアプタマーのdimerによる受容体の2量体化(シグナル惹起)を検証する予定である。3)抗ヌクレオリン・アプタマーの細胞内DDSツールとしての改良と新規創製を進めた。4)肺線維症治療薬として創製した抗オートタキシン(ATX)アプタマーとATXとの複合体のX線結晶構造を2.0Åの解像度で明らかにし(東京大学理濡木教授らとの共同研究)、阻害機序を解明した。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の最重要な目的は、アプタマー医薬品の開発を推進することであり、その意味で、複数のアンタゴニスト・アプタマーが動物モデルで優れた薬効が確認でき、これまでに2種類のアプタマーが製薬企業にライセンスされて臨床試験へむけて準備が開始された事実は優れた進捗といえる。さらに、それらの創製アプタマーのうち、抗オートタキシン(ATX)アプタマーとATXとの複合体の2.0ÅのX線結晶構造の決定は、阻害機序の解明のみならず、本研究の理論的な背景となるRNAの造形力に関する理解を一段と進化させうるものである。
昨年度の実績報告書の当該欄で次のように報告した。『研究実績の概要の冒頭で記述したように、本研究はRNAの造形力を利用した医薬品探索を目的としたもので、1)サイトカイン等阻害薬(アンタゴニスト)の開発、2)受容体作動薬(アゴニスト)の開発、3)細胞内送達(DDS)技術の開発、4)RNA造形力に関する構造生物学的研究、の4項目をサブテーマとし、その基本方針には大きな変更はないものの、計画自体が広範囲にわたるため、今後はサブテーマの絞り込みを進める必要があると考えている。』今年度の研究ではこの基本方策に則り、項目1)と4)で顕著な成果をあげることができた。今後も、この基本方策に注力して研究を進め、本研究の主軸とも言うべきRNAに関する基礎研究と実用化という2輪をバランスよく駆動できるように研究を進めて行きたい。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (14件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
Biochimie
巻: 106 ページ: 10-16
10.1016/j.biochi.2014.08.001
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/rnaikagaku/top.html