研究課題
基盤研究(A)
本研究は、大腸ガンや白血病などの腫瘍細胞で発現が向上し、その増殖を促進するLYARタンパク質がブロモドメインタンパク質BRD4をrDNA上にリクルートしrRNAの転写を加速するとの申請者らの発見に基づいて、LYARによるBRD4のrDNA上へのリクルートを阻害する化合物のスクリーニング法の確立とその探索を目的としている。本年度は、阻害物質をスクリーニングする系を構築するための検討を主として行った。その一つとして、まず、酵母ツーハイブリッド法によるLYARとBRD4の直接結合の確認とスクリーニング系の構築を試みることとし、LYARとBRD4の直接結合を示すことを試みた確認できなかった。一方で、LYARの各種ドメイン変異体を作成しBRD4との相互作用を調べ、カルボキシ末端側のドメインで結合することを明らかにした。また、BRD4をbaitとした場合にもLYARが回収され、LYARがBRD4をrDNA上にリクルートしていることも確認した。さらに、BRD4を結合できるLYARのカルボキシ末端側のドメインだけではBRD4をrDNA上にリクルートできないこと、そして質量分析による翻訳後修飾を解析でLYARが多くのLys残基でアセチル化されていることが示された。これらの事実は、LYARがBRD4をrDNA上にリクルートするためには、BRD4への結合の他にアミノ末端側のドメインの介在そして翻訳後修飾も必要である可能性を示している。次年度は、これらの可能性を検討する必要があると思われるが、今回の結果から、目的の阻害物質をスクリーニングする方法としては、BRD4との結合を阻害する物質あるいは、アミノ末端側でBRD4をrDNAへリクルートするために必要な因子の結合を阻害する物質のどちらかの探索でも良い可能性が明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究目的は、今まで得られたLYARとBRD4の相互作用を、翻訳後修飾や他の因子の介在を介さない最も単純な相互作用を検出する酵母ツーハイブリッド法及び他の方法で検討し、もし単純な相互作用でない場合には、相互作用に必要な因子を洗い出すことであった。この目的に対し、本年度は相互作用を二つのタンパク質の双方向から確認し、そして相互作用ドメインも特定できたことから、二つのタンパク質間の相互作用を確定できたと言える。これに加え、翻訳後修飾と相互作用以外にBRD4をrDNAにリクルートするために必要なドメインの特定もできたことから、ガン細胞の増殖に必要なリボソーム合成を阻害するために必要な要因をより詳細にすることができた。これらは当初想定された範囲の問題点でそれをほぼ解決しており、スクリーニング系を構築し、阻害化合物の探索を開始する段階にはいたっていないが、おおむね順当に進展していると判断できる。
LyarとBRD4の相互作用に翻訳後修飾が介在している可能性が示唆されたので、平成25年度はこの点を明確にすることを試みる。また、酵母ツーハイブリッド実験系は翻訳後修飾が起らない状態での相互作用解析系なので、今年度は 翻訳後修飾が起こりえる哺乳類ツーハイブリッドによるスクリーニング系の構築を重点的に行う。この場合には、CheckMateTM/FlexiVrctor Mammalian Two-hybrid Systemキットを用いて構築する予定である。哺乳細胞を用いた場合には、阻害物質の細胞膜の透過性や存在する蛋白質や他の生体物質の種類においてヒトのガン細胞により近いことが期待できるので、ガン細胞での作用をより反映した阻害化合物をスクリーニングできると考えられる。また、LyarとBRD4の相互作用が翻訳後修飾を介しているだけなのか、あるいは他の作用因子が関わっているかをプロテオミクスの手法で解析することも試みる。今後もほぼ計画通り研究を進める方針である。
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Journal of Proteome Research
巻: 11 ページ: 4553-4566
doi: 10.1021/pr300346c