研究課題/領域番号 |
24242008
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研究機関 | 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館 |
研究代表者 |
幸福 輝 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, その他部局等, 客員研究員 (00150045)
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研究分担者 |
尾崎 彰宏 東北大学, 文学研究科, 教授 (80160844)
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研究期間 (年度) |
2012-10-31 – 2017-03-31
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キーワード | オランダ美術 / 東洋表象 / 東インド会社 / アジア / 日本 |
研究概要 |
作品データベースについては、オランダ国立美術史研究所(RKD)が公開している作品データの検索により、また、17世紀オランダ絵画に関する主要な文献を参照することにより、物語、静物、肖像、風景、風俗の分野ごとに東洋的モティーフを含む作品、東洋的雰囲気に溢れた作品の収集につとめた。特に、本年度は肖像画、静物画を中心に約1000点の作品データが入力された。 また、作品データベースと並行して、基礎資料集成として17,18世紀に出版され、西欧のアジア観の形成に大きな影響を与えた以下の4著について、詳細なメモの作成を開始した。この4著とは、リンスホーテン『東方案内記』、マテオ・リッチ『中国キリスト教布教史』、ベルニエ『ムガル帝国誌』、ケンペル『日本誌』である。断片的な資料集成ではあるが、このような作業により、当時の西欧人たちがアジアのどのようなところに関心をいだき、何を西洋に伝えたかについて知る機会となり、また、どのような挿図が人々の関心を惹いたのかといった議論の出発点になりうるものと思われる。この作業は来年以降も継続しておこないたい。 各分担者の個人研究として、静物画に描かれた中国陶磁器の意味やその風俗画への展開、絵画に描かれた漆器と輸入された漆器との関係、あるいは、17世紀物語画に見られるさまざまなアジア的モティーフの問題、四大陸図像の展開、17世紀の地図、旅行記などに見られる日本の表象、ウィレム・スヘリンクスのムガル宮廷画などさまざまなテーマでの調査が進められた。これらは、年度末の研究会で報告され、質疑を通じて、それぞれの研究内容について相互に理解を深めると同時に、問題点などについて議論をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データベースに関しては、オランダ国立美術史研究所の個々の作品データの容量が大きすぎ、デジタル上での移行ができなかったため、手作業的な入力作業となった。そのため、データベースというよりは、一定の条件に合致する作品の集積といったものにならざるをえなかったが、当初の目的からそれほどはずれてはいないと考えている。 基礎資料の集成は4冊の最重要文献の購読が順調に進んでおり、おそらく、リースホーテン、リッチ、ケンペンは次年度で完了できるものと考えている。ベルニエはほぼ完了したので、次年度はもうひとつ別な資料に取り組む予定である。 個人研究は順調に進展している。研究代表者である幸福は「見知らぬ土地へ―レンブラントの《エジプト逃避》(セーヘルス改版)をめぐって」を刊行し、レンブラントの風景表象における錯綜した制作過程を解明した。年度末におこなわれた個人研究の報告は多岐にわたり、また、非常に興味深いものであった。特に、中国陶磁器や漆器の輸入とそれらが絵画として描かれる際の関係についての議論がおこなわれ、また、ムガル絵画がオランダ絵画に与えた影響が指摘された。東アジアからはもっぱら工芸が輸出されたが、インドからは絵画も輸出されたという事実はオランダ美術の東洋表象を考える場合、非常に重要な論点となるものと思われる。この他にも多くの興味深い論点が提示された。
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今後の研究の推進方策 |
基本的にはこれまでの研究を継続していく。ただ、「17世紀オランダ美術の東洋表象」のデータベースに一定の限界、枠組みを設定することは必要だろう。あまりに範囲が広く、そのため、今後は特定のテーマを設定し、そのテーマにそった形で作品入力を進めていきたい。「物語画、特に、旧約図像におけるアジア的表象」、「静物画における中国陶磁器の分布(時代別、制作地別など)」などといったサブ・テーマが考えられる。 文献史料の収集に関しては、昨年に引き続き、邦訳文献の購読を通じ、アジアに関するどのようなことが17世紀の西欧に伝えられたかという観点からメモをとっていく。欧文文献をどのように扱うかは今後の課題であるが、現時点では、各研究者の個人研究との関わりの中で、ある程度の調査をおこなうというのが現実的であろう。 現時点で、本研究では「日本」がほとんど問題となっていない。これまでの日本人による研究がもっぱら日蘭関係に集中しており、もっと広い視点からオランダとアジアとの関係を考え見たいとする発想もあって、あえて、日本を避けたようなところもあったのだが、せっかくの機会でもあり、今後の研究への基盤整備という意味あいも込め、日蘭関係史料の調査も文献調査に含めたいと考えている。最初の取り組みとしては、「オランダ商館日記」が相応しいと思われるので、今年度から、この文献調査も視野に入れて調査をおこなっていきたい。 個人研究は昨年度の研究発表を出発点に、各自、連絡をとりながら進めていく。
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