17世紀オランダ美術における「アジア受容」をテーマとしたこの研究も最終年を迎え、報告書の作成を念頭におきながら、研究代表者を中心に随時協議をおこない、また、各研究者の個人研究を進めていった。諸般の事情から予定していたシンポジウム開催が遅れてしまい(シンポジウムは科学研究費ではなくポーラ美術振興財団からの助成金で開催されたが、シンポジウムの内容は科学研究費のテーマに沿ったものであり、この科学研究の一環として開催されたものである)、開催時期が年を越してしまうことになったため、シンポジウム報告書と科研報告書の2冊の刊行が年度末に集中することが予想された。そのため、それ以外のデータベース関連の作業と史料調査を12月までにまとめることを目指して研究計画を進めていった。 2冊の報告書は3月末には刊行され、シンポジウム報告書には口頭発表と質疑の要旨が再録され、科学研究費の報告書は一部の口頭発表を論文に改稿したもの、また、シンポジウムで発表されなかった幾つかの論文が加えられた。また、シンポジウムでは科研メンバー以外の研究者も加わったので、彼らの口頭発表もここに再録された。オランダ絵画に描かれた東洋磁器や漆器の問題が単に絵画史の問題としてではなく、実際に輸出され、収集された磁器や漆器の工芸史の問題とともに議論され、また、異国の文化(他者性)がどのように国内で受容され、変質していったかという過程(自己認識)を議論する際の大きな基礎資料をつくることができたのではないかと考えている。 諸般の事情からデータベースでは東洋磁器を含むオランダ静物画に特化して資料作成を試みた。3000点以上もの静物画が収録された。また、史料調査では邦訳のある重要文献に限った調査ではあったが、問題の広がりを理解する上では重要なものであった。これらの史料はいずれも上記した報告書にその内容を記した。
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