研究課題/領域番号 |
24243042
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井堀 利宏 東京大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (40145652)
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研究分担者 |
吉川 洋 東京大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (30158414)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 財政赤字 / 財政規律 / 利益団体 / 所得変動 |
研究概要 |
平成24年度の研究を発展させて、学会報告や論文投稿、また、ミニ・コンファレンス開催などで研究者間の研究打ち合わせを精力的に行った。同時に、国際的環境での財政危機と財政支援についても、本格的な研究を進めた。情報、資金、労働、財・サービスが自由に移動する環境の中で国際的財政支援の利害調整メカニズムとして想定される複数の財政制度・規律ルールについて、それぞれのメリットとデメリットを比較検討した。 とくに、平時と非常時を区別して、非常時における災害対策、景気対策などの財政政策のあり方を事前と事後の両面から考察するとともに、非常時でも持続可能な財政運営と財政制度を考察した。また、国際的財政危機に際して、財政支援面での国際協調がどの程度可能かを理論・実証的に検討し、また、望ましい制度設計を数値解析により定量的に解明した。 さらに、財政赤字に上限を設定することで、利益団体による財政赤字累増の誘因を内部化する手法とその問題点、また、財政赤字上限の望ましい水準や財政規律のルール付けを解明した。主要な結果は以下の通りである。財政健全化は中長期的なコミットメントを意味するから、政府の政治的な強さとも関係している。政府が政治的に強くて公債の上限を設定できる場合、標準的なケースでは、最善解において不況期に公債発行を拡大するのが望ましい。しかし、政府が財政の既得権を容易に削減できないという意味で政治的に弱い次善の世界では、所得変動に対する公債上限のあり方は、人々の便益評価において財政の既得権が有益な公共支出に及ぼす効果と利益団体の政治的活動の程度に依存している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の重要なテーマである平時と非常時を区別して、非常時における災害対策、景気対策などの財政政策のあり方を事前と事後の両面から考察する研究を進めるとともに、非常時でも持続可能な財政運営と財政制度に関して、内外の学会、コンファレンスなどで研究成果を報告するとともに、学術雑誌に公刊することができた。また、国際的財政危機に際して、財政支援面での国際協調がどの程度可能かを理論・実証的に検討し、また、望ましい制度設計を数値解析により定量的に解明する点でも、一定の進展があった。以上のことから、当初の研究目的はおおむね順調に進展していると評価できる。 特に、これまでの研究成果のうち、以下のものについては、今後、理論、実証の両面でさらなる研究の進展が期待できる。すなわち、これまでの研究では、政府が政治的に強くて公債の上限を設定できる場合、標準的なケースでは、最善解において不況期に公債発行を拡大するのが望ましい。しかし、政府が財政の既得権を容易に削減できないという意味で政治的に弱い次善の世界では、所得変動に対する公債上限のあり方が、人々の便益評価において財政の既得権が有益な公共支出に及ぼす効果と利益団体の政治的活動の程度に依存している、という結果を得ていいる。これは、従来の標準的な先行研究に一石を投じる重要な成果といえる。
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今後の研究の推進方策 |
所得変動と財政運営に関する理論面での研究と平行して、制度、実証面でのデータ整備とそれに基づく定量的研究に進展させる。データベースを構築して財政赤字累増と財政再建の実態を包括的に研究する。そして、整合的な定義に基づいたデータ分析を用いて、EUやアメリカ・カナダなどにおける様々な財政制度やルール、税負担や歳出の多様な実態について国際比較をすることで、実際の財政政策において、景気対抗的な財政運営と景気順応的な財政運営を識別できる実証分析を行う。すなわち、本研究では、こうした問題意識のもとに、特に中央政府と地方政府との政府間財政のデータや公的企業の活動データ、民間の利益団体や政党、官僚などによる政治活動データや予算制度の透明度データ、財政規律に関するデータなどをできるだけ統一的に分類整理して、各国の財政の実態をデータ上整理するとともに、財政赤字累増や財政再建が経済活動にもたらす便益やコストの程度を定性的、定量的に検証する。 本研究を発展させることで、財政赤字と財政規律の関係のみならず、福祉国家論や社会保障を重視する大きな政府論や、あるいは、民営化や規制緩和を重視する小さな政府論など政府のあるべき支出も規範的に評価できる。財政赤字と財政制度に焦点を当てることを発展させて、複雑化、グローバル化する政府財政活動の経済分析に新しい視点を提起したい。
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