研究課題/領域番号 |
24243064
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
菅原 ますみ お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (20211302)
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研究分担者 |
酒井 厚 山梨大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (70345693)
山形 伸二 独立行政法人大学入試センター・独立行政法人大学入試センター, 入学者選抜研究機構, 助教 (60625193)
尾崎 幸謙 統計数理研究所, データ科学研究系, 助教 (50574612)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | クオリティ・オブ・ライフ / 精神的健康 / 生涯発達 / 縦断的研究 |
研究概要 |
本研究では、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)や主観的幸福感 (SWB) と精神的健康との関連について縦断的研究法と先端的な時系列データ解析法を用いた検討をおこない、両者の関係性およびQOLに影響する内的資源(パーソナリティ、生育歴、学力・学歴や本人自身の各種リテラシー:生きていく上で必要な知識および技術とその活用力)と外的資源(社会経済的地位、サポートネットワーク)の役割と効果について明らかにし、生涯発達におけるメンタルヘルスの健全維持に必要な個人内外の条件について実証的に解明することを目的としている。 初年度である24年度では、25年度から3年間にわたって実施する調査の仮説構成、使用尺度の決定、新規に開発する尺度(多側面型リテラシー尺度)の開発と予備調査を実施した。予備調査では、本調査の対象と同じ小学校5年生から26歳のまでの子どもを持つ男性122名、女性125名、合計247名に対するウェブ調査を実施した。また、本調査において最低年齢となる小学校高学年の本調査サンプルの子ども400名を対象としたQOLに関する調査を実施した。予備調査の結果、本調査で使用を予定している多側面型リテラシー尺度や主観的幸福感、QOL関連尺度は対象年齢の親子についてそれぞれ概ね妥当な心理統計学的特徴を示すことを確認した。 予備調査と並行して、これまで蓄積してきている縦断的データに関する解析を実施し、学会や論文での発表を進めると同時に、今回の研究で重要となる先端的なマルチレベルでの縦断データ解析法の応用についてテキストとなる洋書の翻訳(”Applied Longitudinal Data Analysis”(Singer & Willett, 2003))を出版し(菅原ますみ(監訳) 『縦断データの分析1─変化についてのマルチレベルモデリング─』,朝倉書店)、学会でワークショップをおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画(本調査の仮説構成、使用尺度の決定、新規に開発する尺度(多側面型リテラシー尺度)の開発と予備調査の実施、これまで蓄積してきている縦断的データに関する解析とその知見の発信、今回の研究で重要となるマルチレベルでの縦断データ解析法の応用に関する洋書の翻訳と出版)を実行したことに加え、本調査の対象となる最低年齢の子どもたち(小学校4年生400名)のQOLに関する調査を実施したことにより、児童期からのQOLと精神的健康との関連を検討することが可能となった。また、本調査で使用する尺度についても当初の予定以上の成果があり、日本語訳がまだない2つの尺度(子ども期から成人期まで適用可能な対人関係尺度:The Network of Relationships Inventory: NRI (Furman& Buhrmester, 1985); 親の抑うつに関する子どもの認知尺度:the Children's Perceptions of Others' Depression - Mother Version (CPOD-MV)(Goodman, S. et al., 2005))について原著者とともに翻訳・バックトランスレーションの作業を完了した。CPOD-MVについては父親版の開発も原著者と共同でおこなうこととなり、本調査では両親の抑うつに関する子ども認知の効果について検討することが可能となった。NRI, CPODはともに精神的健康の健全維持に関する予防的研究にとって重要な尺度であり、この分野の今後の我が国での研究にも貢献可能な作業であったと考えられる。 研究者間の協働も活発におこなうことができ、定例的な会議に加え、学会でのワークショップや共同での方法論に関する翻訳・出版、既存の縦断データを用いた解析結果に関する共著論文の作成や共同発表など多くの成果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に従って次年度より3年間にわたるパネル調査を開始する。妊娠・出産期あるいは幼少期から親子の発達を追跡してきている長期縦断サンプル(1,151世帯父母子合計3,863名)を対象とし、年1回×3波にわたる縦断的調査によって、児童期から成人前期までの子どもと、成人中期から初老期までの両親のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)および主観的幸福感(SWB)の時系列的変動と精神的健康(精神症状および問題行動)との関連について検討をおこなっていく。調査回数を年1度×3回とした理由は、変数間の因果関係の推定とともに、時系列変化の軌跡(trajectory)のシミュレーションを可能にする最低測定回数を満たすためである(Singer & Willett, 2003)。 調査内容は、①精神的健康に関する精神医学的尺度(抑うつ尺度、不安尺度、成人については社会適応尺度、子どもは問題行動尺度)、②主観的ウェルビーイングに関する国際的尺度(QOL尺度:18歳以上にはWHOQOL-26、10歳~17歳の子どもについては子ども用QOL尺度:KINDL、Dienerらの人生満足度尺度)、③基本属性(家庭の社会経済的状況)、④多側面型リテラシー尺度(生活技術・対人関係・シチズンシップ・メディア情報・子育て関連・健康維持・科学技術などの多側面にわたる基本的知識・技術とその活用や達成状況に関するもの、先行研究を参考に初年度に尺度の開発をおこなう)の4点にわたって編成する。過去の縦断的研究で得られた先行要因を投入した上で、今回の3波調査で得られる精神的健康の変化の軌跡を中心としたマルチレベルでの縦断的な解析を実施する。
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