研究課題
本研究は、社会における正義、すなわち「何が正しいのか」を判断し、それに基づいて意思決定を行う心理的過程と、その基盤となる脳と身体の機能を明らかにすることを目的とした。本年度は最終年度として、これまで継続してきた研究を完結し、データ解析の結果に基づいて総括を行った。具体的な成果は下記のとおりである。1)公共財ゲームを実験パラダイムとして採用し、そこにおいて利己的な利益追求と公共的な利益追求の意思決定をもたらす心理・神経基盤の検討を行った。その結果、個人は利己的利益追求を優先するが、罰の可能性がそれを抑制し公共的意思決定を促進することが示された。この判断には、島皮質、副内側前頭前皮質、前部帯状皮質などが関与していた。また、実際に罰を受ける確率が10%程度と低くても、罰の可能性が存在するだけで、利己的判断は大きく抑制された。この行動傾向は、プロスペクト理論により整合的に説明することができた。2)霊長類であるマーモセットは、不平等な振る舞いをする飼育者からより、平等に振る舞う飼育者から餌をもらうことをより好んだ。この結果は、サルにおいても平等の概念やそれに対する選好の方が見られることを示唆する。3)組織の犯罪や不法行為に対する法的責任の判断は、個人の感情や、組織の意図性知覚により大きく影響されることを、調査研究により明らかにした。4)法哲学の観点からは、正義は「各個人の権利に従って利益と責任を平等に配分する仕組み」であると把握できる。心理学のような実証的研究においては、この仕組みが成立し維持されるための心的機制を明らかにすることが有益であることが示唆された。
27年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 1件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件) 図書 (3件)
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