研究課題/領域番号 |
24243069
|
研究種目 |
基盤研究(A)
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
櫻井 芳雄 京都大学, 文学研究科, 教授 (60153962)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 記憶情報 / 神経回路 / セル・アセンブリ / ニューロン / ラット |
研究概要 |
記憶課題とそこで用いる刺激のパラメーターについて検討した。そして同じラットが全ての記憶課題を出来るようになるまで訓練を試みた。その結果、次の3課題を決定した。 (1) 視覚記憶課題:ラットがスタート側の穴に反応すると、壁上部にある白色LEDが短時間だけ点滅または持続して提示した。点滅光が提示された時は、選択側にある左右の穴のうち右に反応すると正反応となり、連続光が提示された時は左の穴に反応すると正反応となった。点滅光の周波数を変えることで課題の難易度を操作し、訓練最終段階の正反応率が約70%となるように調整することができた。この結果、解析時に正反応と誤反応比較をすることが可能となった。 (2) 聴覚記憶課題:ラットがスタート側の穴に反応すると、天井のスピーカーから高低2種類の音のどちらかを短時間提示した。高音が提示された時は右の穴に反応すると正反応となり、低音が提示された時は左の穴に反応すると正反応となった。高低の音の周波数差を変えることで課題の難易度を操作し、訓練の最終段階で約70%の正反応率となるように調整することができた。 (3) 時間記憶課題:ラットがスタート側の穴に反応すると、スピーカーから長短どちらかの音を提示した。長音が提示された時は、右の穴に反応すると正反応となり、短音が提示された時は左の穴に反応すると正反応となった。長音と短音の時間差を変えることで課題の難易度を操作し、訓練最終段階で約70%の正反応率となるよう調整することができた。 記憶課題の訓練と同時に、マルチニューロン活動記録法の改良も進めた。特に、長期間安定して記録するために、電極とマイクロドライブの材質を変え、より小型軽量化することができた。データ解析法についても改良を進め、プログラムのアルゴリズムの改良と高性能コンピュータの導入により、精度と処理速度を上げることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画したとおり、複数の記憶課題について刺激などのパラメータを決定することができ、同じラットに訓練することにも成功した。また、課題の難易度を操作することで、正反応率を70%前後に抑えることもでき、その結果、ニューロン活動の解析する際、正反応時と誤反応時の比較が可能となった。 ただし、当初は記憶課題として順序記憶課題も計画していたが、他の3課題と比べもともとの難易度が高く、他の課題と同時に行えるようになるまで訓練することは難しかった。そこで今後も引き続き、より有効な刺激パラメータと訓練方法を検討することにした。 マルチニューロン活動の記録と解析については、当初予定したとおり、電極や解析ソフトウエアの改良に成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
24年度に確立した3種類の記憶課題と、改良したマルチニューロン活動記録法及びデータ解析法を用い、実際にラットが全ての記憶課題を次々と遂行する際のマルチニューロン活動を記録し解析を進める。具体的的な方法は次の(1)~(7)である。 (1) 視覚記憶課題、聴覚記憶課題、時間記憶課題それぞれを同じラットが遂行していく際、背側海馬と内側前頭前野からマルチニューロン活動を同時記録し続ける。(2) 本年度はさらに、視覚記憶課題中に報酬確率の異なる期間を設け、ラットが課題を遂行しながら報酬予測を変化させる際のマルチニューロン活動も同時記録する。(3) 記録したマルチニューロン活動を個々のニューロン活動に分離する。そして各ニューロン活動を、発火頻度と同期発火に分けて、また正反応時と誤反応時に分けて解析する。(4) 解析結果をカーネル統計や自己組織マップによりさらに処理し、表現する記憶情報の違いに応じるセル・アセンブリの変化を明らかにする。特に、表現する記憶情報が外的な刺激と対応する時(視覚記憶と聴覚記憶)と対応しない時(時間記憶)、また高い報酬確率を予測する時と低い報酬確率を予測する時、それぞれの違いを明らかにする。(5) 同時に、異なる課題や報酬予測が移行し記憶情報が変化していくプロセスにも注目し、そこで生じる局所的な神経回路の状態遷移をネットワークモデルに当てはめ記述する。(6) また、海馬と前頭前野にまたがるマクロな神経回路の同期とその変化についても、同様に解析を進める。同時記録されたマルチニューロン全体の間で同期を見る場合と、同じ電極で記録された局所電場電位(LFP)の間で同期を見る場合の、二通りの解析を予定している。(7) 最終的に、表現する記憶情報の違いに応じて柔軟に変化するセル・アセンブリの実態を局所とマクロの両面から解明する。
|