研究課題
24年度に確立した数種類の記憶課題と、改良したマルチニューロン活動記録法、及びデータ解析法を用い、実際にラットが多種の記憶課題を次々と遂行する際のマルチニューロン活動を記録し解析した。具体的的な結果は下記のとおりである。(1) 視覚記憶課題、聴覚記憶課題、時間記憶課題、順序記憶課題それぞれを同じラットが遂行できるように訓練した。(2) しかし課題が3つ以上になると正答率が落ちるため、視覚記憶課題と時間記憶課題に絞ることにした。(3) 視覚記憶課題中に報酬確率の異なる期間を設け、ラットが課題を遂行しながら報酬予測を変化させる際のマルチニューロン活動を海馬と扁桃体から同時記録した。(4) 記録したマルチニューロン活動を個々のニューロン活動に分離して解析したところ、海馬には行動の変化に対応した活動を示すニューロンが多く、扁桃体には報酬の確率に応じて活動を変えるニューロンが多かった。(5) 同時に、異なる報酬確率の予測に応じて変化する集合的なニューロン活動を解析するため、局所電場電位(LFP)を測定し解析した。(6) その結果、報酬確率の予測に応じて、海馬と扁桃体の間のLFPに特異的なリズム(高周波オシレーション)の同調が生じることがわかった。(7) このような報酬確率の違いを表現するニューロン集団間の相互作用を、セル・アセンブリ仮説の観点から考察した。
2: おおむね順調に進展している
当初計画したとおり、複数の記憶課題を同じラットに訓練するができた。しかし課題の難易度の操作が不十分だったため、正反応率が70%よりも大きく低下する場合があり、記憶課題を視覚記憶課題と時間記憶課題に絞ることにした。その結果、ラットが安定して記憶課題を行えるようになり、マルチニューロン活動も長時間にわたり安定して記録することができるようになった。そして、視覚記憶課題中の報酬確率を操作することで、報酬確率の違いに応じて変化するセル・アセンブリ間の相互作用を、海馬と扁桃体の間で検出することに成功した。これは国際的に初めての成果であり、国際誌Frontiers in Behavioral Neuroscience誌に掲載することができた。
これまでに確立した数種類の記憶課題と、改良した記録法とデータ解析法を用い、ラットが多種の記憶課題を遂行する際のマルチニューロン活動と局所電場電位(LFP)を記録し解析する。具体的的な結果は下記のとおりである。(1) 視覚記憶課題、聴覚記憶課題、時間記憶課題、順序記憶課題それぞれをラットが遂行している際、マルチニューロン活動を背側海馬と内側前頭前野から記録する。(2) 記録したマルチニューロン活動を個々のニューロン活動に分離する。そして、各記憶課題中あるいは各報酬予測中の刺激呈示時、記憶保持期間、反応選択時それぞれにおけるニューロン活動を、発火頻度と同期発火に分けて、また正反応時と誤反応時に分けて解析する。(3) 解析結果をカーネル統計や自己組織マップによりさらに処理し、表現する記憶情報の違いに応じるセル・アセンブリの変化を明らかにする。特に、表現する記憶情報が外的な刺激と対応する時(視覚記憶と聴覚記憶)と対応しない時(時間記憶と順序記憶)、また高い報酬確率を予測する時と低い報酬確率を予測する時、それぞれの違いを明らかにする。(4) 同時に、異なる課題や報酬予測が移行し記憶情報が変化していくプロセスにも注目し、そこで生じる局所的な神経回路の状態遷移をネットワークモデルに当てはめ記述する。(5) また、海馬と前頭前野にまたがるマクロな神経回路の同期とその変化についても、同様に解析を進める。同時記録されたマルチニューロン全体の間で同期を見る場合と、同じ電極で記録された局所電場電位(LFP)の間で同期を見る場合の、二通りの解析を予定している。(6) 最終的に、表現する記憶情報の違いに応じて柔軟に変化するセル・アセンブリの実態を局所とマクロの両面から解明する。
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http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/~ysakurai/