本研究では、聴覚障害児を育てる親が適切な判断・選択を行えるように支援することを目的に、「聴覚障害児の早期教育に関する統合的クリティカルパス・プログラム」の作成と提示を目標とする。 平成24・25年度には、都立大塚ろう学校、私立日本聾話学校、私立明晴学園、田中美郷教育研究所ノーサイドクリニックを対象に調査・研究を行った。また、聞こえと学力に関する実態調査や補聴技術等に関するシンポジウムを2度開催した。その結果、「聴覚障害児の早期教育の多様化は、教育目標自体の多様化によってもたらされている」という知見を得た。例えば、明晴学園では「ろう者としての人格形成を目的とし、日本手話の獲得をめざす」と同時に、聴者の文化を学ぶことを教育目標に位置づける。一方、ノーサイドクリニックでは、人工内耳を中心に、日本語獲得を教育の最終目標として設定している。 26年度は、これらの検討に引き続き、筑波大学附属聴覚特別支援学校の調査・研究を行った。歴史的な動向も含めて分析した所、通常の学年に対応した学力を付けるという教育目標があることが見出された。この結果からも、昨年度までに得られた本研究での知見が支持された。 本年度は、更に、社会への還元を目指して、上記3機関におけるクリティカルパスの一部を雑誌論文にて発表した。また、東京大学先端科学技術研究センターにおいて「聞こえのバリアフリーシンポジウム:多様な情報保障を総覧する」を開催した。各種最新テクノロジーの現状と課題を概観し、聴覚障害児の将来や社会参加も見据えた情報保障の進展が不可欠であることが提示された。 今後「聴覚障害児の早期教育に関するクリティカルパス~総合的プログラム」について、雑誌論文で発表予定である。教育現場という日々流動するフィールドを対象にした研究であったことも関係して、若干の遅延はあったが、おおむね研究計画にのっとって研究が推移した。
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