研究課題/領域番号 |
24244010
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
長田 博文 九州大学, 数理(科)学研究科(研究院), 教授 (20177207)
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研究分担者 |
種村 秀紀 千葉大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40217162)
舟木 直久 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 教授 (60112174)
白井 朋之 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 教授 (70302932)
熊谷 隆 京都大学, 数理解析研究所, 教授 (90234509)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 無限粒子系 / 無限次元確率微分方程式 / ランダム行列 / Airy点過程 / Ginibre点過程 / クーロンポテンシャル / 確率解析 / 対数ポテンシャル |
研究実績の概要 |
無限粒子系は、配置空間に値をとる確率過程として表すことができる。長田と種村は、干渉ブラウン運動を表す拡散過程に対応する準正則ディリクレ形式が、配置空間上の多項式を核として持つための十分条件を与えた。この結果は、ランダム行列に関連する確率過程のディリクレ形式による構成と相関関数を用いた代数的構成の一致の証明で重要な役割をしている。長田と種村は、平成24年度に、無限次元確率微分方程式の強解の存在と強一意性を証明するための一般論を思いつき2つの論文に纏めることにした。平成26年度8月及び12月にそれぞれ、Math arXiveにpreprintの形で公表した。現時点では、論文の最後の磨き上げをしている段階で、まだ投稿までに至っていない。 長田は、Bessel干渉ブラウン運動を記述する無限次元確率微分方程式を解き投稿した。この確率力学は、hard edge極限として得られるもので、ランダム行列に関係する1次元系の3つの普遍的クラスの一つである。 白井と長田は、Ginibre点過程のPalm測度のdichotomyについて、論文を纏め投稿した。 この結果は、通常のGibbs測度では生じない現象を解明したもので、Ginibre点過程の剛性を示すものである。 熊谷は、ランダムコンダクタンスモデルで、コンダクタンスの値が上から有界、原点周辺で多項式増大する場合に、対応するマルコフ連鎖の熱核の精密な評価を与えた。特に、ガウス型熱核評価をもつための条件を、原点での増大度のオーダーを用いて導きだした。(O. Boukharda氏、P. Mathieu氏との共同研究で、現在論文を投稿中。) 舟木は、水中の泡の運動を記述するRayleigh-Plesset方程式の確率摂動ならびに界面揺動を記述する Kardar-Parisi-Zhang 方程式の不変測度等について調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度の研究で、最大の目的であった、Airy点過程に付随する無限次元確率微分方程式の形を究明しすることに成功し、更にそれを解くことができた。これは本来、研究代表者の最近の一連の研究で開発した、無限次元確率微分方程式を解く方法の、重要な例への一つの応用として企画されていた。ところが、幸運にも、当初の目的を達成しただけではなく、平成25年度の研究で、確率微分方程式の通常の意味の解のみならず、はるかに強く良い解である、強解の存在および、弱解が一意的に存在し強解と一致するという意味で、強一意性まで証明することができた。その手法は、このモデルに特化したものではなく、極めて汎用性が高い。無限次元確率微分方程式を、無限個のconsistentな有限次元確率微分方程式に書き換え、さらに平衡分布のtailの一意性の問題に帰着するという、アイデアに基づくものである。 応用として、マルチンゲール問題の一意性、Dirichlet形式の一意性が考えられる。、更に、確率力学の構成という基本的な問題に対して、従来、逆温度βが2の場合は、代数的な方法で無限次元確率力学系の構成がなされていたのだが、それと本研究課題で新たに開発した手法による構成とが一致することを証明された。尚、βが1と4の場合は、従来の、時空間相関関数による代数的な方法では、確率力学は構成されていない。これらの応用として、準正則Dirichlet形式の一意性や、無限次元確率微分方程式に対する有限粒子系近似の存在など、多くの応用を得ている。これらの結果は、この課題研究の出発時点である平成24年度当初の段階では、想像もしなかったレベルである。
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今後の研究の推進方策 |
今得ている結果を論文の形にまとめることに全力を尽くしたい。理論自体が大きく、また斬新なものであるゆえに、それが受け入れられ広まっていくのに、時間がかかる可能性がある。そのために、共著者・共同研究者とともに、研究成果を様々な機会に発表し広めていきたい。今年は、Oxford大学で開催されるStochastic Processes and Their Applicationsという大規模な国際研究集会で、invited special sessionをオーガナイズする予定である。また9月に行われる伊藤清博士生誕百年を記念する国際研究集会、また、10月末の「大規模相互作用系の確率解析」という研究集会を国際研究集会として組織するが、そのような機会を通じて、研究成果を世の中に問いていきたい。
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