原始宇宙で宇宙空間を満たしていた中性水素が電離光子により電離された「宇宙再電離」は、宇宙における天体構造形成のマイルストーンであり、その過程を理解することは現代天文学における中心的課題の一つである。本研究は、宇宙再電離を起こした主要な光源は何であったかに迫るため、有力な候補である遠方の星形成銀河からの電離光子放射を直接測定し、電離光子脱出率を求めること、および電離光子放射率とその他の銀河の性質との関係を明らかにすることを目的とする。このため、すばる望遠鏡超広視野主焦点カメラ(HSC)用の複数の狭帯域フィルターを用いて、遠方の星形成銀河を検出し、かつそれらから放射される電離光子を測定する手法を用いる。他のフィルターを製作した研究者と共同で、集中的な観測を行う提案を申請した。2016年度初頭から観測を行う提案は残念ながら不採択であったが、現在2016年後期からの観測開始を目指した提案を行っている。 一方、現行の主焦点カメラ(Suprime-Cam)を用いた、HSCでは観測できない波長の電離光子銀河の研究については、既存のデータを用いた電離光子銀河サンプルについて、分光データやハッブル宇宙望遠鏡の高空間分解能データに基づく候補天体の吟味、電離光子放射とライマンα輝線の透過幅や紫外線連続光の傾き(年齢またはダスト量の指標)との関係などを評価した論文を投稿した。さらに、同サンプル中の活動銀河核を有する銀河についても電離光子放射率を測定し、活動銀河核の電離光源としての寄与を評価する論文を投稿した。これらの研究は、遠方宇宙において非常に稀な銀河集中領域において実施したが、宇宙の大規模構造が電離光子脱出率に与える影響を評価するため、一般的な天域を探査する観測を2015年4月に実施し、データ解析を進めた。
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