研究課題/領域番号 |
24244028
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
柴田 大 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (80252576)
|
研究分担者 |
田越 秀行 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30311765)
木内 建太 京都大学, 基礎物理学研究所, 研究員 (40514196)
関口 雄一郎 京都大学, 基礎物理学研究所, 研究員 (50531779)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 重力波 / 数値相対論 / 中性子星 / ブラックホール / ニュートリノ / r-プロセス / 磁気流体 / 連星中性子星 |
研究実績の概要 |
H26年度は以下の課題を遂行した。1:合体前の軌道運動にある連星中性子星に対して、初めて15~16周にもおよぶ長時間シミュレーション(2モデル)を実行した。離心率が十分に小さい現実的な初期条件を採用し、さらに外挿極限も注意深くとったので、かつてない精度の正確な波形が得られた。次に得られた波形をeffective-one-body(EOB)法と呼ばれる連星ブラックホールからの波形を精度よく再現できる準解析的手法による波形と比べた。その結果、半径の小さい中性子星の場合にはEOBが数値波形をよく再現することを見出した。一方、半径が比較的大きい場合にはEOBの再現性は悪い。これは合体直前の潮汐変形効果を現状のEOB法では十分に取り入れられていないためと思われる。つまり本研究で、重力波のテンプレート作成に欠かせないEOB法の改良の指針が示された。2:軌道面が歳差運動する場合のブラックホール・中性子星連星の合体現象を調べた。その結果、歳差運動の効果は、基本的にはブラックホールスピンの効果を弱めることを確認した。つまり、合体後に誕生する降着円盤や放出される物質の質量が、歳差運動が大きいほど小さくなることを示した。3:一般相対論的ニュートリノ輻射流体計算により連星中性子星の合体現象を、特に放出される物質の性質に着目して調べた。物質放出は、衝撃波加熱、潮汐効果、およびニュートリノ加熱の3つ機構で起こることを示した。さらに衝撃波加熱またニュートリノ加熱の効果により、放出物質には、中性子過剰度が高いものから低いものまで幅広い分布のものが存在することを初めて明らかにした。これは連星中性子星の合体が、r-プロセス元素合成に都合がよいことを示している。4:連星中性子星の合体に対して高解像度磁気流体シミュレーションを実行し、ケルビンヘルムホルツ不安定性のため磁場が大増幅することを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、連星中性子星やブラックホール・中性子星連星からの重力波の波形を正確に求めることや合体後に誕生する天体を正確に決定することができれば十分に成功と考えていた。しかし、京コンピュータによる大規模数値シミュレーションが可能になったことも助けになり、想像していなかった新しい発見が複数あった。1つは、大規模輻射流体計算を行ったことで、連星中性子星の合体により放出される物質が、r-プロセス元素合成に都合が良い性質を持つことを見つけたことである。もう1つは、連星中性子星やブラックホール・中性子星連星の合体における磁気流体現象が非常に効率性のよい角運動量輸送や衝撃波加熱を引き起こすことを発見したことである。さらには、連星中性子星の軌道運動を長時間追うためのSACRAコードを、年度途中に高速化し、また低離心率の現実的初期条件を構成するコードも構築した。その結果、合体前15周以上にもおよぶ長時間シミュレーションを正確に実行することが可能になり、高精度の重力波波形の大量生産が可能になり、テンプレート構築に道が開け、さらには海外の重力波研究者との新たな共同研究の可能性が開かれた。これも当初は予想していなかった成果である。
|
今後の研究の推進方策 |
H26年度の研究の発展を継続的させ、重力波の正確な波形の導出、物質放出の研究の推進、重元素合成の研究、γ線バーストの中心エンジンに関する理論的研究、重力波データ解析研究など多方面におよぶ世界最先端の研究をさらに発展させていく。
|