研究課題/領域番号 |
24244030
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中家 剛 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50314175)
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研究分担者 |
横山 将志 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90362441)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 素粒子 / ニュートリノ / 加速器 / ビーム / CP対称性 |
研究実績の概要 |
本研究は「ニュートリノにおけるCP対称性の解明」に向け、(1)CP研究の信号となるミューオンニュートリノから電子ニュートリノへの振動の研究、(2)CP測定における最大の系統誤差であるニュートリノ反応不定性の改善、(3)反ニュートリノビームを使った反ニュートリノ振動の研究、(4)将来のCP対称性測定実験の実現に向けた基幹技術である光センサーの開発、の4点を実行している。 平成27年度は、反ニュートリノビームで合計4E20陽子のデータ収集に成功した。このデータを使って、世界最高精度で反ニュートリノ振動パラメータの精密測定に成功し、論文をPhysical Review Letters誌に投稿し受理された(掲載は平成28年度の予定)。また、この測定では、反ニュートリノ反応の系統誤差の改善が重要であり、前置ニュートリノ測定器で高純度な反ニュートリノ事象を選択・解析することで、系統誤差を10%の精度に抑えた。また、CP測定の信号となる反電子ニュートリノ出現事象の探索も行い、3事象を観測することに成功した。この3事象は、ニュートリノ振動でCP対称性が大きく破れているヒント(δCP=-0.5π)として興味深い結果となっている。ただし、反電子ニュートリノ出現を確認するには、さらなる統計が必要である。 光センサーの開発に関しては、昨年度開発した50cm径HPD(Hybrid Photon Detector)の信号増強用のプリアンプの開発を行い、十分な性能がでることを確認した。ただし、性能と価格を考慮すると、高QE化した光電子増倍管の方が優れており、現在、ハイパーカミオカンデ用の光センサーは高QE新型光電子増倍管を採択する見込みとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の当初の目標は、T2K実験のもつポテンシャルを最大限に引き出して世界で最初に電子ニュートリノ出現の信号を確立し、有限値でθ13を決定する、そして、その情報を使い、世界初の反ニュートリノビームを使ったCP対称性の実験を提案することであった。研究計画調書に記した計画では、平成27年に電子ニュートリノ出現を5σの信頼度で確立し、その後、反ニュートリノビームの生成を試み、平成28年から反ニュートリノ振動の研究を開始する予定であった。しかし、我々は平成25年度に電子ニュートリノ出現を7.3σの信頼度で確立することに成功した。この成功は、θ13の値が大きかったことが幸いしているが、大強度ニュートリノビームデータのスムーズな取得と解析プログラムの大幅な改良が大きく寄与している。また、当初の計画では不可能と考えていたニュートリノ振動におけるCP対称性の探索を迅速に開始し、CPが最大に破れているδ=0.5πのパラメータ領域を排除することにも成功した。 さらに、平成27年度は当初計画を前倒しして、反ニュートリノビームによる世界最高精度での反ニュートリノ振動のパラメータ反θ23の測定に成功し、論文とした。CPの信号となる反電子ニュートリノ出現の探索も行い、ニュートリノで測定したδ=-0.5πと一致する結果を得た。将来計画であるハイパーカミオカンデ実験に向けた光センサーの開発もほぼ完了し、ハイパーカミオカンデ実験のデザインレポートもまとめた。 以上のように、当初計画を大幅に前倒しして進めており、多くの重要な物理成果を出すことに成功している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に電子ニュートリノ出現の信号を確立、平成26年度に最初のCP対称性の測定と反ニュートリノビーム生成、平成27年度は世界最高精度での反ニュートリノ振動パラメータの測定に成功した。最終年度となる平成28年度は、これまで獲得したデータを最大限に活用するため、解析手法のさらなる高度化を進める。具体的には、ニュートリノと反ニュートリノ、ミューニュートリ消失事象と電子ニュートリノ出現事象、のすべてのデータを総合的に解析することで、CPの破れの探索感度を最大限に引き上げる。このためには、ニュートリノと反ニュートリノ両方の系統誤差の統一的な理解が必要となり、多次元パラメータを扱う複雑な解析となるが、解析フレームの準備はほぼ整ってきている。今後、これまでの単独の解析と比較しながら、最終結果を出せるように尽力する。 CPの信号となる反電子ニュートリノ出現の確立には、より大量のデータが必要で、このためにJ-PARC加速器のビーム強度の増強が必要となる(こちらは新学術科研費で研究を推進している)。本研究で得た知見と、J-PARC加速器のビーム増強が実現すれば、ニュートリノにおけるCPの破れの証拠を捉えることが可能になる。ただし、CPの破れに対して究極のニュートリノ実験を行うには、ハイパーカミオカンデが必要であり、このため光センサーの開発研究を進めてきた。光センサーの開発研究はほぼ一段落したので、次の段階として、ハイパーカミオカンデの物理感度研究への光センサーの実測性能のインプットと、光センサーの耐久試験が重要である。
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