研究課題
基盤研究(A)
初年度となるH24年度は、まずGaAs/AlGaAs量子井戸を用い、タイムビン転写の原理実証を行った。量子井戸では、不均一性のために正孔スピンの位相緩和時間が10ピコ秒程度と短いため、これに合わせてタイムビンの時間間隔を2ピコ秒程度とし、磁場も7T程度と大きく設定してこれを実現した。得られた成果をまとめると以下のようになる。・量子井戸を用い正孔スピンの歳差運動を利用したタイムビン転写の原理実証・量子井戸を用い電子スピンの歳差運動を利用したタイムビン転写の原理実証また、上記の原理実証実験と並行し、量子ドットの実験環境整備と基礎物性評価を進めた。まずはInGaAs系の歪み形成量子ドットを用い、この単一光子吸収、発光特性と磁場応答を正確に評価するための実験環境を整えた。InGaAs系の歪み形成量子ドットの吸収波長は今まで提案者が主に行ってきたGaAs量子井戸の吸収波長とは大きく異なるため、多くの光学系の変更が必要となった。この実験系を用い、単一量子ドット中の中性励起子および負の荷電励起子を光学励起し、発光波長の磁場依存性から単一電子スピンおよび正孔スピンのg因子を同定した。さらに、上記InGaAs系の歪み形成量子ドットを用いた実験が計画通りに進まない場合の対策として、ダイヤモンド中の単一窒素欠陥中心(NV中心)を量子ドットとして用いた基礎実験を並行して行った。InGaAs量子ドットの場合と同様に、単一欠陥の共鳴励起に成功し、共鳴励起発光強度の磁場依存性、光周波数依存性、マイクロ波周波数依存性などから、単一電子スピンのg因子のみならず、ラビ振動、ラムゼー干渉など、本研究の目的である単一光子から単一電子スピンへの量子状態転写の実現に不可欠な情報を取得した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、量子井戸を用いたタイムビン転写の実証と量子ドットを用いた実験環境整備と基礎物性評価を行う予定であった。これらを全て実行したのみならず、量子メモリー時間や動作温度などの点で性能のより高い量子ドット系の候補として、ダイヤモンド中のNV中心にも同様の手法を適用した。その結果、当初想定していたInGaAsドットを凌駕する量子メモリー時間の達成と基礎的な量子実験に成功し、本研究の目的である単一光子から単一電子スピンへの量子状態転写の実現に目処をつけた。
研究提案時の計画に従い、中間年度となるH25年度は、初年度に整備した実験系を用いて量子状態転写の実証に挑戦する。中間年度の成果として以下を目標とする。・単一量子ドットを用いた光子から電子スピンへの状態転写の実証・転写の忠実度66%以上の実証による量子性の証明単一量子ドットの候補として、当初予定したInGaAs系歪み形成量子ドットだけでなく、より性能の高いダイヤモンドNV中心を用いた実験を並行して進める。転写されたスピン状態の忠実度評価には、電子スピントモグラフィ測定を行う必要があるが、このために従来用いてきた磁気光学カー回転の手法に合わせて、共鳴励起発光による新たな手法の開発を進める。
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