研究課題/領域番号 |
24244044
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
小坂 英男 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20361199)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | スピンエレクトロニクス / 量子エレクトロニクス / 光物性 / 量子井戸 / 量子ドット |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、半導体中に形成された単一量子ドットを用い、単一光子から単一電子スピンへの量子状態転写を始めて実現することである。本目的に鑑み、中間年度となるH25年度は下記のような実施計画を立てた。 ・単一量子ドットを用いた光子から電子スピンへの状態転写の実証 ・転写の忠実度66%以上の実証による量子性の証明 本実施計画に基づき、初年度からInGaAs系の歪み形成単一量子ドットを用い、中性および負荷電励起子発光波長の磁場依存性から単一電子および正孔スピンのg因子を同定した。また、ダイヤモンド中の単一窒素欠陥中心(NV中心)を用い、共鳴励起発光強度の磁場・光周波数・マイクロ波周波数依存性から単一電子スピンのg因子のみならず、ラビ振動、ラムゼー干渉などの基礎実験を行った。これらの基礎実験からInGaAs歪み量子ドットとダイヤモンドNV中心を比較検討した結果、ダイヤモンドNV中心の方がより制御性が高いという観点から、本研究の目的である量子状態転写に向けて最適な物理系であると判断し、中間年度ではダイヤモンドNV中心を用いた実験を主に行った。ダイヤモンドの研究は、従来のN型のみならずP型ドープにも成功し半導体特有の電流注入によるNV中心のLED発光も可能になるなど近年急激に進み、ダイヤモンドNV中心を半導体量子ドットと呼んでしかるべきである。 中間年度に得られた成果は以下である。①ダイヤモンド中の単一NV量子ドットを用いた光子から電子スピンへの量子状態転写の実証を行った。②転写の忠実度98%以上の実証による量子性の証明を行った。転写には当初タイムビンの手法を用いる予定であったが、制御性のより高い縮退スピンコヒーレントポピュレーショントラッピングの手法を用いた。また電子スピントモグラフィ測定についても、当初計画したカー回転の手法よりも物理系に適した吸収・発光による手法を用いるなどの工夫を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の実施計画通り、単一量子ドットを用いた光子から電子スピンへの状態転写の実証および転写の忠実度66%以上の実証による量子性の証明に成功した。転写の忠実度は目標とした66%を遥かに超え、98%以上に達した。成功の理由は、InGaAs系の歪み形成単一量子ドットよりも制御性の高いダイヤモンドNV中心を選択したこと、転写にタイムビンの手法よりも制御性の高い縮退スピンコヒーレントポピュレーショントラッピングの手法を用いたこと、また電子スピントモグラフィ測定にカー回転の手法よりも物理系に適した吸収・発光による手法を用いるなどの工夫を行ったためである。
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今後の研究の推進方策 |
研究提案時の計画に従い、最終年度に得られる成果として以下を目標とする。 ・量子ドットに残された基底状態の単一電子スピンへの量子状態転写の実証 ・転写後の電子は基底状態のため量子メモリーとして最適であることを示す ・ポストセレクションによる転写の純粋化とその忠実度を評価 一番目の課題である基底状態への転写は、既に中間年度に達成したように見えるが、実際には転写に必要な光子の数が1個ではなく数個であったため、量子テレポーテーションの原理を応用した転写手法の開発により単一光子から単一電子スピンへの真の量子状態転写を目標とする。二番目の課題である量子メモリーとしての最適性の証明には、縮退した電子スピンのエコー技術の開発を行い、位相緩和した量子状態の復活による長寿命化を図るとともに、マイクロ波あるいは光波による任意スピン制御を行い、量子メモリーとしての制御性実証を目標とする。三番目の課題であるポストセレクションによる転写の純粋化には、吸収・発光による量子テレポーテーションの原理を応用してこれを達成する。
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