研究課題
基盤研究(A)
本研究の目的は、近年様々な強相関電子系において存在が明らかになりつつある、電子状態が結晶の回転対称性を自発的に破った「電子ネマティック相」について、新しい手法を用いて回転対称性の破れを調べるものである。本年度においては、磁気トルクの精密測定システムを用いて、重い電子系超伝導体URu2Si2の「隠れた秩序」相、鉄系高温超伝導体BaFe2(As,P)2およびBa(Fe,Co)2As2の常伝導相において、純良な微小単結晶試料を用いた測定を行った。その結果、以下の成果を得た。1)URu2Si2の「隠れた秩序」相において面内磁場回転と、[001]および[110]を含む平面内と[001]および[-110]を含む平面内での磁場回転の比較、の2つの異なる測定を行い、いずれにおいても帯磁率に有限の面内異方性が17.5 Kの隠れた秩序相転移温度以下で現れることを明らかにした。さらに、1.4 Kの超伝導転移温度以下でも有限の面内異方性が残り、2回対称性分が超伝導状態でさらに増加することが明らかとなった。これらの結果は、隠れた秩序の対称性が面内で結晶の対称性を破る2回対称性を持つこと、さらに超伝導状態では上部臨界磁場の異方性が生まれることを強く示唆している。2)鉄系超伝導体では、低ドープ領域で知られていた構造相転移温度よりも高温でトルクの2回対称性が現れることが明らかとなった。また、その転移温度はP置換およびCoドープの両者で、置換を進めるとともに系統的に低温へ向かってシフトしていき、超伝導ドームを覆うように高置換領域まで延びていることがあきらかとなった。これらの結果は、鉄系超伝導体の相図上において、構造相転移とは別に電子系のネマティック相転移線がより高温に存在するという、新たな情報を与えるものであり、鉄系超伝導の発現機構を議論する上で重要な結果であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
計画していた磁気トルク測定は様々な試料で測定が可能になっており、重い電子系化合物や鉄系超伝導体の微小単結晶での測定により電子ネマティック秩序の存在を実験的に示すことができた。この測定の利点は、一軸圧力などを用いて試料全体にわたり非双晶化をする必要が無く、微小結晶を用いるため、ネマティック秩序に伴うドメイン構造の形成においてもドメイン比のバランスが1からずれることが期待され、この差によって2回対称性の観測が可能となっていると考えられる。一軸圧力による非双晶化は、圧力印加自体により対称性の破れを引き起こしている可能性を排除できないため、このような圧力を用いない測定が重要となる。得られた結果について、URu2Si2についてはアメリカ物理学会等の招待講演において発表したところ、大きな反響を得ている。また、鉄系超伝導体についても、Nature誌で一部の結果を発表し、国際的に高い評価を得ている。これらの結果は多くの国際会議における招待講演につながった。以上より、本研究課題の当初研究目的に対して、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
まずはじめに、今年度導入した水平方向7テスラ、垂直方向3テスラのベクターマグネットを活用し、現在3テスラ程度に抑えられていた磁場範囲を倍以上に拡大し、磁気トルク測定のさらに高精度測定を行う。磁気トルクの信号はほぼ磁場の2乗に比例するために、これにより信号強度が4倍以上になり、今まで扱えなかったより微小な試料での測定が可能になる。さらに、磁場依存性測定を行い、電子ネマティック秩序の磁場に対する応答についても調べる予定である。次に、ピエゾ素子を用いた一軸歪みに対する電気抵抗の応答を調べるシステムを立ち上げる予定である。このような測定は半導体や一部の鉄系超伝導体で行われているが、非常に感度の高い実験方法であることが報告されている。この手法を用いて、URu2Si2の隠れた秩序相や、他の鉄系超伝導体の電子ネマティック相の電子状態を今後調べていく予定である。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (15件) (うち査読あり 15件) 学会発表 (14件) (うち招待講演 14件) 備考 (4件)
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