研究課題
本研究の目的は、近年様々な強相関電子系において存在が明らかになりつつある、電子状態が結晶の持つ回転対称性を自発的に破った「電子ネマティック相」について、新しい手法を用いて回転対称性の破れを調べる物である。本年度においては、重い電子系超伝導体URu2Si2の「隠れた秩序」相における回転対称性の破れについて、以下の成果を得た。1)昨年度までに得られた成果である、磁気トルクの磁場角度依存性に2回対称成分が出現するという実験結果から、系の対称性が4回回転対称性から2回回転対称性へと低下していることが示唆された。これを裏付けるために、結晶構造に今までには観測されていない微小な斜方晶歪みが出現していることを、SPring-8において放射光X線を用いた高分解能結晶構造解析により明らかにした。数多くの試料の中から、高い品質の結晶性を持つ単結晶試料を選定し、以前の報告より少なくとも3倍以上の鋭さを持つBraggピークを示す試料を用いて、特に斜方晶歪みに敏感である広角Braggピーク[880]に着目し、4軸回折計を用いた温度依存性測定を行った。その結果、隠れた秩序相への転移温度以下で、微小な斜方晶歪みの明確な観測に成功した。この結果により、隠れた秩序が4回回転対称性を破る状態であることを散乱実験によりゼロ磁場下で初めて立証した。2)ピエゾ素子を用いた一軸圧力化における電気抵抗率の弾性応答測定の測定システムの立ち上げについて主要部分の整備が整った。現在、URu2Si2におけるテストランを行っており、今後、電子ネマティック相への転移に近づくにつれてその感受率に相当する物理量がどのように変化するかを測定するための基盤が確立した。
1: 当初の計画以上に進展している
SPring-8における放射光X線を用いた高分解能結晶構造解析は当初計画していなかったが、当該分野の国内外における理論家・実験家との議論において、4回転対称性の破れに応じた斜方晶歪みの観測の重要性が明らかになったため、測定を行った。これまでのURu2Si2における構造解析の結果では、転移温度以下も特に大きな構造変化はみられず、正方晶の構造を保つとされてきており、これがこの「隠れた秩序」が大きな謎とされてきた要因の一つであった。本研究では、特に斜方晶歪みがあるかどうかに着目して、高品質試料を用いて最高レベルの高い分解能を実現することにより、世界ではじめて斜方晶歪みの観測に成功した。得られた結果について、強相関電子系の国際会議、およびURu2Si2に特化した国際ワークショップの招待講演において結果を発表したところ、大きな反響を得た。現在この結果を論文として投稿しており、査読中である。また、当初より計画していたピエゾ素子を用いた一軸圧力化における電気抵抗率の弾性応答測定の測定システムの立ち上げも順調に進んでいる。以上より、本研究課題の当初研究目的に対して、研究は計画以上に進展していると考えている。
今年度においては、昨年度基礎的な部分を立ち上げたピエゾ素子を用いた一軸圧力化における電気抵抗率の弾性応答測定の測定システムを完成させ、様々な強相関電子系における測定を進める。ピエゾ素子に印加する電圧により、一軸性の歪みを導入することが可能であり、その時の電気抵抗率の変化を測定することにより、ネマティック性の感受率に相当する物理量を弾性的に評価が可能となる。特にURu2Si2においては試料の品質により感受率がどのように変化するか、磁場下でどのように変化するかなどの情報を得ることが期待される。さらに、電子ネマティック状態について議論されている鉄系超伝導体についても測定を行う。特に、最近純良単結晶が得られるようになってきたFeSeについて、詳細な測定を行う予定である。この系は他の鉄系超伝導体とは異なり、斜方晶構造相転移温度以下で反強磁性秩序が現れないことが知られている。そのため、この系の電子ネマティック秩序について他の系との比較が重要になると考えられる。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 8件) 備考 (1件)
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