研究課題
多孔質結晶のゼオライトでは,安定なアルミノ珪酸塩骨格の間に3次元的に規則正しく配列したナノ空間(細孔)が形成される。この空間にアルカリ金属を吸蔵させると,s電子は局在量子準位を形成するとともに,窓を通じて細孔間を遷移し,電子相関が効いた新奇な多体電子系を形成する。その結果,非磁性元素の金属で構成されているにもかかわらずフェリ磁性や反強磁性や絶縁体金属転移など,構成元素からは予想されない物性が観測される。種々あるゼオライトの中で,βケージとスーパーケージの二種類の細孔がそれぞれダイヤモンド構造で配列したゼオライトLSXにNa-K合金クラスターを作成したところ, NaとKのイオン数がそれぞれ細孔当たり7.3個と4.7個のものに,カリウム原子を約9個吸蔵させた試料で,ほぼ純粋な強磁性が観測された。電気抵抗率は高く,絶縁体状態にある。また,強磁性を示す試料では,βケージに形成されたクラスターによる光学反射スペクトルが観測された。これらの実験結果から,βケージには,磁気モーメントをもつクラスター形成され,それが強磁性的に配列していると考えられる。そこで,βケージの磁気モーメント間の強磁性相互作用を説明するために,スーパーケージ中のクラスターを仲立ちにして発生する超交換相互作用を考えた。スーパーケージ中にはsp3縮退軌道が形成されており,そこに8個のs電子が占有して閉殻を形成する。その際,隣接するβケージ間の超交換相互作用においては,運動交換項が効かず,ポテンシャル交換項による強磁性相互作用が支配的となる機構を提案した。一方, Naイオン数が細孔当たり4個の系が示すフェリ磁性とは,磁性も電気的性質も大きく異なり,Naイオン数の違いによって,電子状態が大きく変化することが分かってきた。
2: おおむね順調に進展している
βケージとスーパーケージの二種類の細孔がそれぞれダイヤモンド構造で配列したゼオライトLSXにNa-K合金クラスターを作成した系は,NaとKの比率に依存して,磁性と電気伝導が劇的に変化することがより明確に分かってきた。これまでばらばらに理解されてきた内容が,NaとKイオンのイオン化ポテンシャルの違いによって,電子格子相互作用に違いが発生するという観点から,系統的に理解されつつある。Naだけの系では,電子格子相互作用が大きく効いており,非磁性の絶縁体となるが,Na吸蔵量を増加させると,金属に転移し,熱活性型の磁化率が観測され,これを準安定なスモールポーラロンの形成機構で解釈した。これにKの比率を増やして行くと,今回のように,絶縁体のまま,突然,ほぼ純粋な強磁性が突然観測されることが判明した。Kの比率をさらに増やすと,金属状態のフェリ磁性が観測され,電気的にも磁気的にも系統的な変化が現れることが明らかになった。これらは,ハバードモデルにおける電子遷移エネルギーtに電子間反発エネルギーUを考慮した系に,電子格子相互作用Sを取り入れたt-U-Sダイヤグラムに電子濃度nの違いを取り入れた相図が形成されているとして全体が理解されつつある。
βケージとスーパーケージの二種類の細孔がそれぞれダイヤモンド構造で配列したゼオライトLSXにおいて,Naイオン数が細孔当たり4個の系ではフェリ磁性を示し,K吸蔵量のわずかな違いに依存して,磁性が変化するだけでなく,電気抵抗にも異常が現れることが分かってきた。これらも含めて,ナノ空間に導入されたアルカリ金属s電子系の絶縁体金属転移と磁性の関連について,全体像を明らかにする。
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