研究課題/領域番号 |
24244063
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐野 雅己 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40150263)
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研究分担者 |
太田 隆夫 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50127990)
和田 浩史 立命館大学, 理工学部, 准教授 (50456753)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 非平衡クロス効果 / ソーレ効果 / レーマン効果 / 液晶 / コロイド / 非平衡熱力学 |
研究概要 |
本研究は、非平衡クロス効果を用いて、微小な空間スケールにおける輸送を制御し、分子マニピュレーション手法の確立を目指す。具体的には、最近発見された、温度勾配と濃度勾配の効果から生じる非自明な分子の濃縮・分離効果を解明するとともに、カイラルな分子に温度勾配や他の分子の化学ポテンシャル勾配を加えた際に起こる分子の並進および回転運動などの観測と理論を展開することも目指している。初年度の実績は以下の通りである。 ①温度勾配によるカイラル液晶の回転効果の解明 カイラル液晶の薄い層に垂直に温度勾配をかけると、等方相とコレステリック相の共存温度を跨ぐ場合に、液晶液滴が形成され、温度場の向きに応じて、時計方向または反時計方向の回転をすることを確認した。また、界面の配向状態を制御することで液晶液滴内の構造を変化させることが可能となり、2種類のタイプの構造を見いだした。その内の1種類は、新たに発見されたもので、他の構造に比べてかなり早く回転することを見いだした。カイラルな液晶のドロプレットが温度勾配の下で回転する現象(レーマン効果)が分子のミクロの対称性によるものか、あるいはマクロな構造によるものかは、未解決問題であるが、次年度で蛍光共焦点偏光顕微鏡法により配向構造を明らかにすることでメカニズムに迫りたい。 ②温度勾配と濃度勾配の非平衡クロス効果の解明 これまでに、赤外レーザーを対物レンズを通して局所的に照射することで、局所的な温度勾配を形成し、ソーレ効果により溶液中に定常的な高分子の濃度勾配を作り、その濃度勾配を用いてコロイド粒子やDNAなどの分子を輸送、集積する方法を開発した。高分子の種類を変えた場合や、チャンバーの厚さ、形状の効果を調べ、この効果の基本特性を明らかにした。また、定常状態だけでなく、ダイナミクスの測定を可能にするため、温度勾配強制レーリー散乱の装置を立ち上げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カイラル液晶の温度勾配下における回転現象は、レーマン効果として100年以上前から知られているが、再現が難しいため、その後ごく最近まで、殆ど実験がなされず、現在でも世界で2,3研究室でしか再現に成功していない。1年間で再現に成功し、さらに界面の配向状態を制御することで、新たなドロプレットの構造と回転を見いだした点は、予想以上の結果であった。 一方、温度勾配と濃度勾配のクロス効果現象は、我々が数年前に発見した新規な現象であるが、高濃度条件での振る舞いや、2種の高分子のサイズにあまり差がない場合のクロス効果に関しては、いまだ解明がなされていない。初年度は、基本的なデータの取得に集中した結果、定常分布の測定方法や評価方法は確立することができたが、ダイナミクスを測定するための新規装置を立ち上げたところで時間切れとなってしまった点は、やや残念である。
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今後の研究の推進方策 |
以上の進捗状況を踏まえ、次年度の推進方策は、次のようにまとめられる。 ①温度勾配によるカイラル液晶の回転効果の解明 カイラルな液晶のドロプレットが温度勾配の下で回転する現象(レーマン効果)が分子のミクロの対称性によるものか、あるいはマクロな構造によるものかを明らかにするため、蛍光共焦点偏光顕微鏡法により液滴内の配向構造を明らかし、理論との比較からそのメカニズムを明らかにすることを目指す。そのためには、高速スキャン可能な共焦点顕微鏡が必要となる。また、クロス効果による重心の並進運動の可能性に関しても調べていゆく予定である。 ②温度勾配と濃度勾配の非平衡クロス効果の解明 引き続き、温度勾配強制レーリー散乱やマイクロ流路を用いた実験により、高濃度条件、非線形効果などに関して実験を行ってゆく。
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