研究課題/領域番号 |
24244064
|
研究種目 |
基盤研究(A)
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
三沢 和彦 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80251396)
|
研究分担者 |
高田 英行 独立行政法人産業技術総合研究所, 電子光技術研究部門, 研究員 (50357357)
鳥塚 健二 独立行政法人産業技術総合研究所, 電子光技術研究部門, 研究員 (30357587)
鈴木 隆行 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80539510)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | コヒーレント制御 / モード同期 Yb ファイバーレーザー / 位相制御 |
研究概要 |
本研究では、可視域のコヒーレント制御光源を開発し、当該帯域に反応性を持つ有機分子の量子状態を制御することを目的とする。分子の高速な内部運動を制御するために、MHz 繰り返しの可視域 Yb ファイバーレーザーを新規に開発し、そこにコヒーレント制御実験のための位相制御装置を組み込む。特に、光応答性 DNA などにも応用されているアゾベンゼン系分子の構造を、任意にスイッチングする励起パルス条件を調べることに最終的な目標とする。 平成24年度は主として、可視域の超短パルス光源の開発を進める。開発する可視域超短パルス光源は、(1) モード同期 Yb ファイバーレーザー発振器、(2) パルスセレクターおよびYb ファイバー前置増幅器、(3) 利得狭窄補正フィルター、(4) パルス伸長器および分散補償器、(5) Ybファイバー出力増幅器、(6) パルス圧縮器および第2高調波発生、の各部から構成される。本研究の特長は、LD 励起 Yb ファイバー増幅器の出力として、フーリエ限界パルス幅で45fs 以下に相当するスペクトル帯域を得る目的で、利得狭窄補正を行う誘電体多層膜フィルターの設計・試作を行う点にある。 このうち、平成24年度はYb ファイバーレーザー発振器の製作と利得狭窄補正フィルターの設計まで達成した。Yb ファイバーレーザー発振器については、出力波長約1030nmを中心とし、パルス繰り返しは70MHz、平均出力50mW程度である。最も重要なスペクトル帯域は、フーリエ限界パルス幅で40fsに相当する帯域が得られており、目標の45fs以下を達成できた。利得狭窄補正フィルターとしては、光学的厚みがそれぞれ104nmと416nmのAl2O3とSiO2を用い、層数は57、最上層はAl2O3、入射角は40°、入射偏光はP偏光とした場合に目標とするパルス発生が可能となる見通しを得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、利得狭窄補正を行った場合の出力パルスのスペクトル位相をSpectral Phase Interferometry for Direct Electric-field Reconstruction (SPIDER) 装置を用いて評価し、その結果に基づいてパルス伸長・圧縮器の分散の最適化について検討を行うこととしていた。しかし、実際には、その前段であるファイバーパルス発振器の製作過程において問題が起きたため、その段階で計画に遅れが生じた。具体的には、ファイバーパルス発振器の出力に緩和発振状の強い強度変調がみられたことである。結局、回折格子やファラデーアイソレーター、利得ファイバーなど主要な光学素子を交換していくことで解決できた。その結果、平成24年度は、利得狭窄補正フィルターの設計までに留まり、利得狭窄補正後のパルス位相の評価までには至らなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、平成24年度の計画で未達成になっている、利得狭窄補正を行った場合の出力パルスのスペクトル位相評価を早急に行う。その結果を元に、パルス伸長・圧縮器の分散の最適化、あるいは必要に応じてチャープミラーなどを用いることによりYbファイバー増幅システムの残留分散の補償を行う。中心波長約1030nmの基本波で繰り返し周波数3MHz以上、パルスエネルギー100nJ 以上、パルス幅 45fs以下のパルスを発生させる。高次分散の影響が顕著であると判断される場合には、液晶空間光変調器を用いた分散補償器を組み合わせ、高次分散の完全除去を試みる。 この基本波出力パルスを非線形結晶を用いた第2高調波発生により、中心波長約 515nm の超短パルス光に変換する。フリンジ分解自己相関器でパルス波形の評価を行う。可視域パルスの目標値は、繰り返し周波数 3MHz 以上、中心波長約 515nm、パルス幅 30fs 以下、パルスエネルギー30nJ 以上とする。 平成25年度は、本研究計画のもう一つの特長である高速掃引波束分光計を、可視領域に拡張する。高速掃引波束分光計は、分子の構造変化ダイナミクスを直接観察しながら、コヒーレント制御のためのパルスパラメータを網羅的に探索することを可能にする。 まずは、可視域に吸収のあるシアニン系分子の分子振動波束を観測する。試料は、実績のあるジエチルチアトリカルボシアニン(DTTCI)との比較のために、それと類似の構造で骨格鎖の長さの異なるジエチルチアカルボシアニン(DTCI) およびジエチルチアジカルボシアニン (DTDCI)を用いる計画である。
|