研究課題/領域番号 |
24244065
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
桂川 眞幸 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (10251711)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 真空紫外 / 誘導ラマン / 光周波数標準 / レーザー分光 |
研究実績の概要 |
本研究は、これまでに確立してきた誘導ラマン散乱過程の断熱操作技術をもとに、真空紫外域(< 200 nm)において、光周波数標準の周波数精度(13桁以上)をもつ、高強度・広帯域連続波長可変レーザー光源を実現することが目的としている。2年目に当たる今年度は、誘導ラマン散乱の起点になる互いに位相同期した二波長レーザーの発生技術を確立する作業を系統的に実施した。1年目に開発した高精度に波長調整が可能な、高強度注入同期Ti:sレーザー光源に加え、もう一波長となる半導体レーザーをテーパー増幅器で増幅した光源を準備し、これらに光源を互いに位相同期させることを試みた。差周波数発生等の非線形光学過程を通して、それら互いに独立な二光源から、近接した二周波数の光を発生させ、それを安定なRF標準に位相同期させることで、互いに独立な二周波数のレーザー光源の位相同期を達成した。また、これに並行して、高いラマンコヒーレンスの生成に関する最適な条件を実験的に明らかにする作業を進めた。高いラマンコヒーレンスの生成には、媒質とするパラ水素の物性に関する精密な情報を得ることが欠かせない。開発した高強度注入同期Ti:sレーザー光源を用いて、パラ水素の密度を広い領域に渡って変化させながら、位相緩和定数を評価する作業を繰り返した。さらに、これらの値をもとに数値計算をおこない、すでに検討済みの解析的に得られた理解と併せて、実験を進めるための指針を明瞭にする作業を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目に当たる今年度は、まず、誘導ラマン散乱の起点になる互いに位相同期した二波長レーザー光の発生技術を確立する作業を系統的に実施した。高強度な二波長の互いに独立したレーザー光源をもつことが、この研究の全ての出発点である。互いに100 THz以上離れたレーザー光を位相同期させるために、差周波光の発生と、さらに、その二倍波発生を通して、互いに近接した二周波数の光を発生させた。理想的には互いに全く同じ周波数となるはずの光の一方を意図的にあるRF周波数だけシフトさせ、二周波数の差周波数が、そのRF周波数に位相のレベルで正確に一致するよう、おおもとの二周波数のレーザー光源にフィードバックをかけた。いわゆる周波数分周に相当する技術を、光の領域に適用したことに相当する。二周波数の位相同期の精度は用いたRF標準の精度に大きく依存するが、ここではその精度の限界値に近い値を得たことを確認することができた。短期的な安定度、数時間にわたる長期的な安定度の双方で、目標とした精度が達成された。これら一連の作業を通して、誘導ラマン散乱の起点となる互いに位相同期した二波長のレーザー光源の技術を確立するという本プロジェクト研究の大きなステップの一つをこえることができた。また、横モードについては、ビームプロファイル上でのパターンが非常に良好であることが確認された。次年度は、引き続きM^2値の定量的な評価を実施し、共振器への結合度を含めての評価を実施する。さらに、これに並行して、高いラマンコヒーレンスの生成に関する最適な条件を実験的に明らかにする作業を進めた。開発した高強度注入同期Ti:sレーザー光源を用いて、室温においてパラ水素の密度を3ケタに渡って変化させながら、位相緩和定数を精密に評価する作業をおこなった。以上、2年目に計画した作業をほぼ完了することができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は2年目までに確立した互いに位相同期し、かつ、高精度に波長調整が可能な、二波長の高強度レーザー光源をもとに、誘導ラマン散乱実験を系統的に実施する。すでに、パラ水素のポイントになる基礎パラメーターを実験から詳細に調べ、また、それらをもとに数値計算を実施し、高いラマンコヒーレンスの生成に関して理論的な側面からの系統的な検討は実施済みである。今後は、実際の精度の良い誘導ラマン散乱実験を系統的におこない、それと既に得られている理論的な検討結果を相互比較しながら、実際の誘導ラマン散乱過程を精密に表現できるモデルになっているか検討を進める。また、目標とする誘導ラマン散乱光系列の発生について必要な光のスペック、媒質に求められる最適なパラメーターを明らかにする。また、そのようにして発生させる誘導ラマン散乱光系列への光周波数標準の精度の転写技術を確立することを目指す。おおもとになる二波長のレーザー光への光周波数標準の精度の転写は、(光周波数標準に安定化された)光周波数コムへの位相同期技術を用いて実現する。これまでに、ナノ秒のパルスレーザーを用いた実験では、注入同期増幅、さらに、高次の誘導ラマン過程を経てもその精度が維持されることを示唆する結果が得られている。今年度の大きな目標は、その転写精度が、精密に評価が可能な連続発生領域でどのようになっているかを明らかにすることにある。
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