研究課題/領域番号 |
24244073
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
柳澤 孝寿 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, 主任研究員 (20359186)
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研究分担者 |
田坂 裕司 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00419946)
陰山 聡 神戸大学, システム情報学研究科, 教授 (20260052)
桜庭 中 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50345261)
宮腰 剛広 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, 研究員 (60435807)
隅田 育郎 金沢大学, 自然システム学系, 准教授 (90334747)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 地磁気 / 逆転 / 液体金属 / 室内実験 / 数値シミュレーション |
研究概要 |
地磁気逆転現象の解明を目指して、磁場と回転の影響下での液体金属の熱対流を中心に、複数の対流系の研究を実験と数値計算の両面から実施してきた。 磁場の影響については、下部加熱による液体金属の対流を対象とした。これまでに観察されている2次元的な対流ロールの「不規則」な反転に加え、より強磁場の環境で「周期的」な反転現象が観察された。この周期的な反転運動について固有直交関数展開による解析を行い、ロール数の異なる2つのモードの競合として表すことができるという結果を得た。また、容器のアスペクト比と反転現象の関係を調べるために、これまでに使用した容器よりもアスペクト比の小さな容器を用いて実験を行った。ドイツ・ドレスデンのヘルムホルツセンターに滞在し、より強磁場の環境下から磁場を段階的に減少させていく際に、ロール対流の不安定性がどのように出現するかについて、詳細な実験を行った。 回転の影響については、内部発熱により駆動される水の対流での可視化実験を行い、複数のレジームが存在することを示した。その中でも特に複雑に対流構造が変化するレジームについて、シート状の下降流を伴う対流セルの移流によるものであることを示すとともに、そのレジームの出現条件が流体層厚に対するエクマン層の厚さの比率により整理されることを明らかにした。 数値計算では、これまでに構築したコードにより磁場と回転のある低プラントル数流体のシミュレーションを進めた。加えて、液体金属の容器とその外部の真空領域を数値的に扱うための新たな数値計算手法を研究した。これは座標系を変換し、容器外部の空間におけるポテンシャル方程式を、同じ形状をした容器内部の空間にマップすることで有限の格子点数でポテンシャル問題を数値的に解く方法である。また、そうして得られる楕円型の方程式を高速に解くためのマルチグリッド法コードを開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究で、磁場の影響下での対流パターンはチャンドラセカール数(磁気力)とレイリー数(浮力)で整理できることが示された。同様に、回転の影響下での対流パターンはテイラー数(コリオリ力)とレイリー数でよく分類できることが明らかになりつつある。磁場と回転はともに流れ場の二次元性を強める効果があることから、その影響下でのそれぞれの結果には類似点が多く見られる。室内実験では回転のパラメータ領域のほうが広く設定しやすい一方で、回転の実験では重力と回転軸を別の向きにとるのは困難であるが、磁場の実験ではそれが容易であるなど、両者の効果の研究は相補的な関係にあり、それぞれの利点をうまく生かすことで、地球の外核での流れについての統一的な理解を得られる見通しがついてきた。 磁場については、昨年度に導入した新しい大型コイルによって、一様性の良い強磁場の発生が可能となった。これにより、発達した乱流の特徴を示すような高レイリー数の領域についても、磁場による顕著な乱れの抑制効果や方向性の規定の効果を研究することが可能となり、地球の外核の状況に近づくことができる。 必要な手法開発の面でも大きな進展が得られている。室内実験で同一の対流系を対象にして、超音波流速分布計により得られる時空間速度分布(1次元空間での時間変動)と可視化画像(2次元空間での時間変動)の比較を実施し、対流の水平スケールおよび移動を推定する手法の構築が進んだ。また、室内実験よりも限られたパラメータ領域ではあるが、数値計算でも磁場および回転の影響について、理論予測や実験結果を精度よくシミュレートできるようになってきた。数値計算との比較は、実験での限られた計測から流れ場の全体構造とその時間変動を再構築する際の指針を与えるものである。
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今後の研究の推進方策 |
室内実験を中心にして、それに対応した数値シミュレーション、ダイナモシミュレーション、地磁気変動との比較、を相互に参照しながら協力して実施する。実験では、より高いレイリー数の地球に近い条件において、定常流から時間変動の開始、そして乱流へという遷移を一貫して捉える。容器のアスペクト比を多様にして、小さくして高いレイリー数を実現するもの、大きくしてロール数を増やすもの、の両方向に調査対象を拡げる。発達した乱流状態が、強い磁場下ではどのように抑制され、構造の方向性を維持するかを調べる。回転場での対流パターンについては、時空間変動の特徴を明らかにするとともに、ロールの固有スケールがどのように決まるかを調べる。特に、テイラーコラムやシート状対流など、2次元性の強い構造について、加熱モードと層厚により形態がどのように変化するかを解明し、ダイナモシミュレーションとの比較を行う。 数値シミュレーションでは、磁場をかけた系および回転系での高解像度の長時間積分を多くのケースについて実行し、室内実験との統計的な比較を行う。また、これまでに開発してきた液体金属対流シミュレーションコードに「その場可視化」手法を組み込む。この手法は多数の可視化動画ファイルを生成するもので、それを対話的に解析することで、より室内実験との親和性の良い解析手法を確立する。これまでの磁場をかけた系のシミュレーション結果から、流れ場の反転の過程として磁場方向に並んだロール構造に対するskewed-varicose instabilityが重要であることが分かったので、同時に進める球殻でのダイナモシミュレーションとも比較して反転現象でのその一般性を調べる。これらを総合して、地球外核に適用可能な条件にまで平均流とそのゆらぎの挙動の解明を進め、地球史を通じた地磁気の反転頻度や強度の変動への手がかりを得る。
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