研究課題/領域番号 |
24244074
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新野 宏 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (90272525)
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研究分担者 |
柳瀬 亘 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (80376540)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 竜巻 / 温帯低気圧 / 熱帯低気圧 / 積乱雲 / スーパーセル / 突風 / 階層構造 |
研究実績の概要 |
昨年度まで、米国で竜巻大発生を伴った温帯低気圧(OC)と伴わなかった温帯低気圧(NOC)の統計的な構造の違いを、竜巻のポテンシャルの予測に有効とされるエネルギーヘリシティ(EHI)という環境場の指標を構成する (1)ストームに相対的な環境風のヘリシティ(SREH)という環境風の鉛直シアに基づく積乱雲の回転生成の指標と(2)対流有効位置エネルギー(CAPE)という大気の不安定度に基づく積乱雲の上昇流の強さの指標に着目して、客観解析データに基づきコンポジット解析から明らかにしてきたが、本年度はこれらの結果とメカニズムを数値実験により確認・検証した。すなわち、コンポジット解析から求めたOCとNOCの環境場を基本場として、温帯低気圧の発達を数値実験により調べたところ、コンポジット解析で見られたのと同様、OCがNOCに比べて、南北に伸びた構造を持ち、下層の南風が強いこと、これに伴いSREH・MUCAPE(各高度の気塊を持ち上げたとき得られる最大のCAPEの値)も大きいことがわかった。また、これらの違いは、OCの方が低気圧の環境場の偏西風ジェット軸の南側の時計回りの水平シアが大きいことによることが明らかになった。 一方、昨年度までの解析から、熱帯低気圧に伴う竜巻のポテンシャルは、SREHおよび積乱雲への周辺空気の取り込みを考慮したCAPEの2つの指標が大きい北東象限で大きいことを明らかにしたが、後者の指標の計算において仮定した周辺空気の取り込み率の妥当性を調べるために、積乱雲のラージ・エディ・シミュレーションの準備を行った。 また、低気圧の内部構造が積乱雲の特性・竜巻の発生に与える影響とそのメカニズムを検討するため、地表面の摩擦の影響を考慮したスーパーセルの理想化実験を行ない、竜巻が再現されることを確認し、摩擦の大小による竜巻の特性や形成メカニズムの違いを検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は、1)環境場が低気圧の内部構造に与える影響とそのメカニズムおよび2)低気圧の内部構造が積乱雲の特性・竜巻の発生に与える影響とそのメカニズム、に分けて研究を進めているが、いずれのサブ課題も当初の計画通りにほぼ順調に研究が進んでいる。 サブ課題1)については、米国で竜巻大発生を生ずる温帯低気圧と生じない低気圧の構造と環境場の違いが、客観解析データの解析と数値実験により明らかになった。また、台風を生ずる台風と生じない台風の違いが、客観解析データの解析から明らかになり、特に積乱雲への周辺空気の取り込みを考慮した対流有効位置エネルギーという指標を用いることにより、当該指標の分布と竜巻の発生分布が整合的になることが示された。また、サブ課題2)についても、過去に竜巻を発生させた高層観測データを水平一様に与えた数値実験により、スーパーセルとこれに伴う竜巻が再現され、近年注目されている竜巻発生に関する地表面摩擦の効果を調べることができた。これらの成果をまとめて、アメリカ気象学会およびアメリカ地球惑星科学連合の英文国際誌に7編の論文(IF4.21の論文誌に1編、3.58の論文誌に2編、3.25の論文誌に4編)を発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果を踏まえて、当初の計画に従い、1)環境場が低気圧の内部構造に与える影響とそのメカニズムおよび2)低気圧の内部構造が積乱雲の特性・竜巻の発生に与える影響とそのメカニズム、の2つのサブ課題に分けて研究を継続する。 サブ課題1)においては、米国で竜巻大発生を生ずる温帯低気圧と生じない温帯低気圧の違いを明らかにした研究で用いた手法を、日本で竜巻を生ずる温帯低気圧と生じない温帯低気圧に適用し、両者の違いを明らかにする。また、その結果に基づき、米国と日本における竜巻を生ずる温帯低気圧の構造の違いや環境場の違いを明らかにする。 サブ課題2)においては、台風に伴う竜巻の環境場の指標として有用性を示した対流有効位置エネルギーの計算に必要な積乱雲への環境場の空気の取り込み率(以下、エントレインメント率)を高解像度数値実験で求め、昨年度仮定したエントレインメント率の確認・検証を行う。 また、温帯低気圧の中で大きな被害を生じた竜巻に似た突風事例について数値シミュレーションによる再現実験を行い、その機構と低気圧の階層構造を明らかにする。
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