研究課題
白亜紀で最も温暖化したと考えられている1億1300万年前のOAE1bおよび9400万年前のOAE2を対象として各種分析を行った結果，本年度は以下の研究成果を得ることができた．１）白亜紀の海洋無酸素事変OAE1b, OAE2層準の年代モデルの確定：北海道蝦夷層群の惣芦別川，芦別川，白金川，古丹別川，大曲沢川，朱鞠内川の各セクションにおいて炭素同位体比および凝灰岩のU-Pb放射年代測定，浮遊性有孔虫化石の抽出を行い，さらに白金川のOAE2層に関してはオスミウム同位体比の測定を行った．その結果，同区間に関して世界で最も詳細な年代モデルを作成することができた．また，岩手県久慈層群において，炭素同位体比と凝灰岩のU-Pb放射年代の結果から，日本の陸生層で初めてOAE2層準を見出すことができた．２）OAE2層準の環境変動：白金川，大曲沢川，朱鞠内川のOAE2層準において，昨年度に引き続き底生有孔虫群集および粘土鉱物分析を実施した．粘土鉱物組成およびイライトの結晶化度および底生有孔虫群集の溶存酸素指標種の増減に着目し，オスミウム同位体比の研究結果と比較した結果，OAE2直前の火成活動が活発化する時期に陸域に湿潤な環境が出現し，OAE2の発生と同時に乾燥化，海洋の貧酸素化が起こったことが明らかとなった．３）OAE1b層準の陸生層の研究：兵庫県篠山層群において炭素同位体比と凝灰岩のU-Pb年代測定を行った結果，OAE1b層を含んでいることが明らかとなった．また，同層準の泥岩は暗灰色を呈し，他の層準は赤色を呈することから，湿潤気候が卓越していることが明らかになった．
2: おおむね順調に進展している
炭素同位体比層序，オスミウム同位体比層序，凝灰岩のU-Pb年代測定については，今年度でほぼ終了し，深海～浅海セクションのOAE2とOAE1b層準の高解像度の年代モデルの構築がほぼ完成した．現在進めている各セクションのOAE2とOAE1b層準の古環境解析についても粘土鉱物分析および底生有孔虫，浮遊性有孔虫の群集解析が8割程度終了した．
今後は，陸生層のOAE2及びOAE1b層準の高精度年代モデルの構築と，深海～浅海セクションの同層準の石灰質ナノ化石と渦鞭毛藻化石の検討を行う予定である．
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