研究課題
基盤研究(A)
1. 低エネルギーAr+イオン照射試料の透過電子顕微鏡(TEM)観察:イタリア国立天体物理研究所のStrazzulla博士が,以前,低エネルギー(約40 keV)Ar+イオンをカンラン石に照射した試料を走査電子顕微鏡(SEM) (野口・木村担当)およびTEMで観察(野口担当)した。試料最表面に多数の気泡が観察されており,発泡部ではイオン照射によってカンラン石中のFe2+が還元されて金属鉄となっていた。2. はやぶさ探査機回収試料の走査透過電子顕微鏡(STEM)観察:アメリカのローレンスリバモア研究所にて,Bradley博士とイトカワ試料の超薄切片の走査透過電子顕微鏡(STEM)観察を行った。2層構造を持つ宇宙風化リムでは,最表面層のみSiとOの結合が明瞭に切られているが,金属鉄ナノ粒子の存在する部分の結晶度はかなりよいことが明らかになった。すなわち,金属鉄ナノ粒子は結晶の一部が非晶質化している部分に見られることを示している。これは申請者の先行研究と合致した。3. 微小試料1個よりTEM試料と希ガス同位体質量分析試料を準備する方法の開発:微小試料1個よりTEM試料と希ガス同位体質量分析試料を準備する方法を開発した。この方法では,集束イオンビームを使って微小試料(数十ミクロン)からTEM観察のためさらに一部を切り出し,切り出しを行った本体側試料は希ガス質量分析する。実際に,太陽風に曝されている物質として,微隕石と月レゴリス試料(日高(広島大)が選択)を使い,TEM観察のための切片作成とTEM観察,および希ガス同位体質量分析(岡崎(九州大)担当)ができるようになった。FIB切片はそのままでは格子像観察に向かないため,本研究費で低加速アルゴンイオンミリング装置を購入し加工最適条件を探した。その結果,普通のTEMでも格子像が非常にクリアに観察できるようになった。
3: やや遅れている
LLコンドライト隕石へのHe+イオン照射実験を,当初計画のイタリア国立天体物理研究所のStrazzulla博士ではなく,平成25度にアメリカのヴァージニア大学物理学教室のDukes博士に行っていただくことになった。このため,照射実験の予定が1年間遅れている。1回目のイトカワ試料が配布されたが,月試料でTEMと希ガス分析を組み合わせた研究が確立してからでなければ,この手法を適用しないようにとの意見付であった。そのため,初年度に開発した手法のイトカワ試料への適用は2回目の試料配布がある2年目に持ち越しになった。
平成25年度に,月レゴリス試料,LLコンドライト照射実験試料,平成25年度配布予定のイトカワ試料の3種類の研究を,初年度に開発した方法を使って行うことになる。月試料も最表面から回収された,太陽風照射の解析により適した試料を日高(広島大)が中心となってNASAより入手する予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 4件)
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