研究課題
基盤研究(A)
1.レーザーアシステッド電子回折(LAED)観測装置における電子パルス発生用紫外レーザー光のパルス幅を最適化することによって、LAED信号の検出効率を10倍程度向上させた。改良された観測装置を用いて、Xe原子やCCl4分子を試料としたLAED信号の角度分布の測定を行った結果、従来の理論モデルでは説明できない散乱角度分布が得られ、レーザー電場による電子雲の歪みが複雑な内部構造を持っている可能性が示唆された。さらに、レーザー電場中での原子・分子の電子状態特性を観測するために、レーザーアシステッド電子衝突イオン化観測装置の設計を行った。2.理化学研究所播磨研究所のX線自由電子レーザー施設において、MPCCD2次元検出器と組み合わせることができる、気相のX線回折計測を目的とした、広角Be窓付X線回折計測装置の立ち上げを実施した。このX線回折計測装置と理化学研究所播磨研究所が開発した高精度X線タイミング計測装置と組み合わせた計測システムの設計を行った。3.分子の電子励起状態において、非断熱相互作用によって複数の解離経路が結合する最も簡単なモデルとして1次元水素分子モデルを取り上げた。分子の強レーザー電場との相互作用、電子-核非断熱相互作用を同時に取り込むために、分子の非断熱波動関数の記述には「拡張された時間依存多配置波動関数理論」を用いた。この理論によれば、電子構造は時間に依存した電子軌道を使った多配置展開法によって記述され、核の運動は各電子配置の重みを表す、核配置に依存した関数によって記述される。実時間発展を記述する運動方程式を虚時間発展で利用することで、モデル分子の基底状態電子-核波動関数を求める計算コードを開発した。
2: おおむね順調に進展している
1.LAED観測装置の検出効率が10倍程度向上し、高いS/Nでの回折パターンの観測が可能となった結果、小角散乱領域における散乱電子角度分布が従来の理論とは大きく食い違うことが判明した。これは当初の計画では予期していなかった成果であり、分子において光ドレスト状態が形成される効果が従来の理論では十分に再現できないことに起因すると考えられる。2.ビームラインにインストール可能なX線回折装置の立ち上げを終了し、X線を導入して計測が可能な状態となった。高精度X線タイミング計測装置は、理化学研究所播磨研究所の佐藤研究員が開発した最高10 fsの時間分解能をもつ計測装置を気相X線回折計測装置に組み込める用に再設計し、X線とフェムト秒レーザーのタイミングを計測しながら、X線回折計測が行える状態となった。3.拡張された時間依存多配置波動関数理論は、強光子場中での分子の電子-核動力学を第一原理的に記述する方法論として提案されたものであるが、実際の数値計算コード、および具体的な原理検証研究例はなかった。本研究は、分子の強レーザー電場との相互作用、電子-核非断熱相互作用を同時に取り込むための第一原理的な方法論を構築するための基礎となっている。
1.1keV-TOF型レーザーアシステッド電子回折装置を開発し、時間分解LAED法の実現をめざす。さらに、LAED法による分子の過渡的な幾何学的構造の精密決定を実現するために、分子の光ドレスト状態を詳細に観測し、光ドレスト状態の効果も取り入れた新たな理論モデルを構築する。2.開発を行ったX線回折計測装置と、高精度X線タイミング計測装置を理化学研究所播磨研究所のX線自由電子レーザービームラインに設置し、X線タイミング計測および、X線導入時の信号-ノイズ計測比の評価および、四塩化炭素などの気相分子の回折像計測を試みる。3.拡張された時間依存多配置波動関数理論は、電子-核動力学を同時に扱うために、いわゆる断熱電子状態・断熱ポテンシャルエネルギー曲線という概念を使わずに計算を行う。従って、分子動力学の計算結果を非断熱結合の強レーザー場による変調という観点から考察するためには、拡張された時間依存多配置波動関数理論によって計算された電子-核波動関数の動力学を、核に対するポテンシャル概念を使って解析する必要がある。本研究では、電子-核相互作用ポテンシャルを対角化することで、従来法で利用されてきた、時間依存断熱ポテンシャルに相当するポテンシャルエネルギーを定義する方法の提案と、その計算ルーチンの開発を行う。
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