研究課題/領域番号 |
24245006
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田原 太平 独立行政法人理化学研究所, 田原分子分光研究室, 主任研究員 (60217164)
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研究分担者 |
山口 祥一 独立行政法人理化学研究所, 田原分子分光研究室, 専任研究員 (60250239)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 界面 / ダイナミクス / 超高速分光 / 非線形分光 / 分子科学 |
研究概要 |
今年度は、界面分子の振動緩和ダイナミクスを研究するために赤外励起時間分解ヘテロダイン振動和周波発生(TR-HD-VSFG)分光法を開発した。また、これを発展させた界面選択的な二次元分光である、二次元ヘテロダイン振動和周波発生分光(2D-HD-VSFG)分光を実現した。 1. TR-HD-VSFG分光の完成と応用 赤外ポンプ光を照射して界面分子の振動励起を行い、適当な遅延時間後にHD-VSFG測定を行うことで、水界面での振動緩和ダイナミクスを追跡することに成功した。具体的には、帯電した水界面のモデルである電荷をもったヘッドグループを有する界面活性剤の単分子膜と水の界面の、OH伸縮振動領域の赤外励起時間分解振動スペクトルを約200フェムト秒の時間分解能で測定した。振動励起に伴って界面水の振動基底状態の信号が減少し(ブリーチ信号の観測)、同時に振動励起状態の信号が現れる様子が観測された。H2O界面のブリーチ信号は励起直後から幅が広く、OH伸縮振動はフェルミ共鳴によって広がっていることが明らかになった。 2.2D-HD-VSFG分光への拡張 OH伸縮バンドをその幅より狭い帯域の赤外パルスで励起することで水界面の水素結合の不均一性を実験的に調べることができる。H2OをD2Oで希釈し、OH伸縮振動を与える種が実質的にHODとなる状況を作り出せるが、HODではフェルミ共鳴による広がりがないので、界面水構造の不均一性をより直接的に検討できる。帯電したHOD界面に対してTR-HD-VSFG実験を行い、不均一性を示すホールバーニングと、それに続くスペクトル拡散現象を観測することに成功した。さらに赤外励起光の励起波長を系統的に変化させた測定を行い、二次元ヘテロダイン振動和2D-HD-VSFG分光を実現した。得られた二次元スペクトルは界面の水素結合ダイナミクスがバルクと顕著に異なっていることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
フェムト秒~ピコ秒時間領域で進行する界面分子の超高速振動緩和ダイナミクスを研究できる新しい分光計測であるTR-HD-VSFG分光法を開発することに成功した。また、これを発展させた界面選択的な二次元分光である、二次元ヘテロダイン振動和周波発生分光(2D-HD-VSFG)分光を実現した。これらは溶液における時間分解赤外(TR-IR)分光と二次元赤外(2D-IR)分光と直接対応する強力な界面選択的超高速分光であり、これを液体界面で実現したのは世界で初めてである。このように世界をリードする成果が得られたが、これは当初の計画を大きく上回る成果であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、世界に先駆けて実現した液体界面に対するTR-HD-VSFG分光および2D-HD-VSFG分光は現在、世界で我々しかが行うことのできない最も先進的な界面選択的な非線形分光である。このアドバンテージを利用して液体界面における振動ダイナミクス測定を強力に推進する。具体的には、まず、帯電した水界面の振動ダイナミクス研究をさらに進め、水中のカウンターイオンが水界面ダイナミクスに与える影響を検討する。カウンターイオンの濃度をあげると界面電荷の影響がスクリーニング効果によって近距離に制限されるので、カウンターイオン濃度の異なるスペクトルを比較することで、表面ごく近傍の界面の水とやや深い界面の水のダイナミクスの違いを検討することができる。さらに、最も基本的な、中性の空気/水界面の振動ダイナミクスの研究に進む。空気/水界面からの信号は帯電した水界面からの信号に比較して強度が著しく小さいが、最も基本的な水界面として重要性が高いのでこれに挑戦する。これら、赤外励起のTR-HD-VSFG測定と2D-HD-VSFG測定による水界面の振動励起ダイナミクス研究を行いながら、紫外・可視励起のTR-HD-VSFG分光を開発する。これによって、界面分子を電子的に励起して化学反応やイオン化過程を誘起し、界面における反応ダイナミクスを研究するための強力な分光計測を実現する。
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