本研究では、ケイ素-ケイ素三重結合化合物ジシリンと炭素-酸素二重結合化合物であるケトン類との反応を検討した。ジイソプロピルケトンなどの中程度の嵩高さのジアルキルケトンとの反応では [2+2]環化付加により対応する酸素置換4員環ジシレンを与えることが分かった。一方、ジアリールケトンとの反応では予期しない化合物としてシレピン縮環型5員環シレンを与えることも分かった。 本反応においても初めに酸素置換4員環ジシレンを生じるが、アリール基の電子的効果により炭素-酸素結合が熱的に解裂し、続く多段階の異性化を経ていることが明らかになった。 また、非対称置換ケイ素-ケイ素三重結合化合物やケイ素―異核元素三重結合化合物の合成における優れた試剤と考えられる一つのケイ素原子が三重の求核反応点となるトリリチシランの合成研究および合成的利用を検討した。嵩高いトリアルキルシリル基を置換基とするトリブロモシランを過剰量のリチウムナフタレンと反応させると、定量的に対応するトリリチオシランを発生できることを各種捕捉反応により見出した。トリブロモシランの還元的リチオ化によるトリリチオシランの発生においてはリチウムナフタレンが必須であり、ナフタレンにリチオシリレンが付加したリチオシラシクロプロパン誘導体を経由してトリリチオシランが生じることも明らかにした。得られたトリリチオシランと種々のトリハロシランとのカップリング反応による非対称置換ケイ素-ケイ素三重結合化合物の合成を試みたが、トリリチオシランの熱的安定性の低さや反応系中に残留するリチウムナフタレンによる妨害等により、目的化合物を得るには至らなかった。一方、トリリチオシラン発生時の中間体であるリチオシラシクロプロパン誘導体を用いると、非対称置換ケイ素-ケイ素三重結合化合物の良い前駆体と考えられる非対称置換ジハロジシレンを合成できることを見出した。
|