研究課題/領域番号 |
24245015
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
片山 佳樹 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70284528)
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研究分担者 |
浅井 大輔 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 助教 (10423485)
大内田 研宙 九州大学, 学内共同利用施設等, 講師 (20452708)
森 健 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70335785)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | バイオチップ / ペプチドアレイ / キノーム / プロテインキナーゼ / がん / マイクロアレイ / 創薬 / 蛍光分析 |
研究概要 |
本研究では、創薬や疾病の診断に有効な、細胞内プロテインキナーゼ活性を網羅的に評価し、プロファイリングできるキノーム評価用ペプチドアレイを開発することを目的としている。本年度は、がんにおける制癌剤の効果を判定できる投薬前診断、および制癌剤開発のためのアレイの検討を行った。制癌剤としては、イレッサを用い、これに対して感受性のHCC827細胞、耐性のA549細胞、およびその中間のIC50値を有する種々の細胞を用い、各細胞に30 nM及び300 nMのイレッサを添加後の細胞内キノームの計測を検討した。その結果、耐性細胞では、キノームに大きな変化は見られなかったのに対し、感受性細胞では多くの基質においてリン酸化率の低下がみられ、キノームによりイレッサの効果が判定可能であることが分かった。また、感受性細胞と耐性細胞の比較により、双方とも、イレッサの本来の効果であるEGFRキナーゼの活性は同等に低下しているが、耐性細胞では、それを補償するためにSrcパスウェイの活性が更新しており、これがA549細胞の耐性の機序であることを明らかにすることに成功した。実際、ウェスタンブロッティングにより、EGFRとSrcの活性を評価したところ、ペプチドアレイにより予想された結果を証明することができた。 さらに、感度の高いキノームプロファイリングを実現するため、新規なキナーゼ基質ペプチドを設計し、これを評価した。特に、セリンスレオニンキナーゼの活性検出感度が悪かったためこれらの基質を検討したところ、数種の反応性の良い気質を見出した。また、検出系においても、用いたPhosTagの結合力が本質的にセリンスレオニンキナーゼ基質のリン酸化部位に対して小さく、感度低減の原因になっていることを明らかとし、リンカー部位の長い新規なPhosTagの検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては、細胞内キノームを正確に評価できる次世代ペプチドアレイの開発を最終目標としている。当初は、S/N比を上げるためにアドレッサブルアレイを検討したが、その後の各種の条件最適化により、ペプチドを固定化hしたアレイにおいても、同等のS/N比が実現できたことから、より簡便で実用性の高いペプチド固定型アレイの検討を進めることとした。初年度は、薬物投与時における細胞内キノーム変化を評価可能なアレイの基本条件を確立することを目的としていたが、実際、イレッサを用いて、その感受性や耐性をキノームにより表現できることを実証できた。これまでにも種々のペプチドアレイにおいてキノーム解析が検討されているが、すでに他の手法で明らかとなったキナーゼ変化を確認するものばかりであり、今回のように得られたキノームから実際に動いているキナーゼを解明した例はない。本成果は、実際の薬物でのキナーゼ活性総体としての評価を可能にした世界で初めてのものであり、今後の研究の基礎を確立したものといえる。ただ、セリンスレオニンキナーゼの検出においては、感度の点で問題があり、これを次年度から改善する必要がある。しかし、当初予定したキノーム評価用ペプチドアレイの基本的の条件や計測法に関しては確立することに成功しており、予定通りの達成度をいうことができる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度からの研究としては、今年度確立したペプチドアレイ評価のための種々の条件を用い、さらに確度と再現性(信頼性)の高いペプチドアレイの実現に向けた検討を行う。今年度はキノームが大きく変化する制癌剤を用いて検討したが、制癌剤は複数のキナーゼパスウェイを同時に動かすため、その詳細な解析は困難である。そこで、次年度からは、特定のキナーゼが特異的に変化することが分かっているサイトカインや、特定のキナーゼに対するsiRNAの投与前後でのキノーム計測を検討し、標的キナーゼの活性が予想された通り計測できることを実証していく。そのためには、キノーム評価検討と同時に、さらに標的キナーゼに対して感度よくリン酸化率が変化する基質の探索、リン酸化部位の検出条件の最適化などを検討する。特にリン酸化反応における溶液の拡散の問題が浮上している。現在は厚さ50 umの空間のあるカバーガラスの空間に細胞破砕液を注入して基板上のペプチドと反応させているが、このように極小の空間では溶液の攪拌の問題が反応率に大きく影響し、再現性の低下を招くことがわかってきた。そこで、空間を高さ300 umまで広げ、攪拌用のビーズを用いて内部の細胞破砕液を攪拌できるシステムの検討を行う。 これらの検討により、信頼性の高いアレイが実現できた後は、製薬会社から薬効機序が未知の新薬候補を提供していただけることになっており、これを用いて実際に薬効機序の評価が可能であることを実証し、創薬ツールとしての次世代ペプチドアレイを確立する。
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