今年度の研究において、可視光エネルギーを利用するヒドロカルボキシル化反応の開発を目指し検討を行った。その結果、ロジウム(I)カルボキシラートが光酸化還元触媒存在下で速やかにロジウム(I)ヒドリド種に変換できることを見いだした。この結果をもとに様々な検討を行った結果、電子求引性基の置換したスチレン誘導体に対し光酸化還元触媒、及びカルボキシル化触媒としてロジウム(I)錯体を用い、電子源として第三級アミン存在下、二酸化炭素雰囲気下、室温で可視光照射することにより、目的のヒドロカルボキシル化体が触媒的に得られることを見出した。また、この反応では、カルボキシル化の段階にもルテニウム錯体と可視光照射が必要であることを明らかにした。さらにこの成果を発展させ、可視光照射下、パラジウム錯体とイリジウム光酸化還元触媒を組み合わせ用いることにより、ハロゲン化アリールを基質として用いるカルボキシル化反応の開発に成功した。またこの反応は幅広い基質に適用可能であり、さまざまな官能基を持つ臭化アリール、さらには塩化アリールを用いて好収率で対応する安息香酸誘導体を得ることができる優れた反応である。これらの反応はいずれも、化学量論量の金属還元剤を用いず、二種の触媒量の金属錯体を組み合わせ用いるだけで、可視光エネルギーを利用して反応を行うことに初めて成功した先駆的な研究成果である。 また、ギ酸塩をヒドリド、及び二酸化炭素源とし、PGeP-ピンサー型パラジウム錯体を用いる不飽和炭化水素のヒドロカルボキシル化反応を各種の基質を用いて検討し、スチレン誘導体や、電子不足アルケン基質に対して効率良く反応が進行することを見出した。本反応はギ酸塩をヒドリド源としてのみならず二酸化炭素源としても利用した初めての例である。また、ギ酸塩は二酸化炭素と水素から容易に合成可能であることから、本反応は優れた二酸化炭素固定化反応である。
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