カルボニル基はその求電子性,α位水素の酸性,還元性などから有機化学の中で最も重要な官能基の一つである。本研究においては,カルボニル基をケトン,エステル,アミド,N-複素環化合物中のカルボニル化合物などの形で炭素-炭素不飽和結合に高効率,高選択的に付加させる触媒反応の開発に成功した。反応に用いた基質としては,入手容易で取り扱いの簡便な酸塩化物,塩化カルバモイル,ホルムアミド類,ギ酸アリールエステルなどを用い,これらのアルキンおよびアルケンに対する付加反応における反応性を明らかにした。従来は有している官能基が触媒反応中に失われることが多く,官能基の付加反応を達成するためには,原料化合物中に特殊な配向基が特定の場所に不可欠であるなど,反応における制限が極めて厳しかった。一方,本反応においては,反応中に用いた官能基を失うことなく選択的に生成物を得ることができた。重要なポイントは,触媒各素反応において脱カルボニル化反応などの官能基を失う触媒素反応を完全に抑えることであった。本研究においては,中心金属の特性,配位子の空間的拡がりなどの触媒環境をより適正に構築し,高い立体選択性,位置選択性を有する官能基の触媒的付加反応を,有用官能基を有する広範囲の基質を用いて達成した。触媒中心金属としては,炭素-金属結合の安定性,そして触媒活性の高さから,イリジウムとパラジウム錯体の触媒活性を活用した。また,配位子としては,金属中心に強く配位するN-複素カルベン配位子,および極めて大きな挟み角を持っているホスフィン配位子の官能基保持能力が極めて高いことを見出した。触媒および触媒反応の探索と並行し,金属錯体を化学量論用いた反応も試み,触媒活性種中間体の単離,同定にも成功し,いくつかの代表的な触媒中間体の構造をX線結晶構造解析により決定した。
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