研究実績の概要 |
本研究では、単分子接合のSERS, IETS, 熱起電力計測法の開発に成功した。まず光増強場を利用した表面増強ラマン散乱(SERS)と電気伝導度の同時計測装置を新たに構築した。電極を電子線微細加工で作製することで、単分子接合の安定性の向上、リーク電流の低減、電極の中空ブリッジに酸化物を使うことで、SERS計測で妨害となる蛍光シグナルの低減を行うなどの工夫を行い、世界で初めて単分子接合のSERS計測に成功した。単分子接合は分子存在下、ナノ電極を破断することで作製した。多数の接合についてI-Vを計測した所、3つの状態(H, M, L)が優先的に形成されていることが明らかとなった。I-V特性を解析し、金属と分子の波動関数の重なり(Coupling)、電極と分子軌道のエネルギーの差、伝導度と3つの情報を得た。並行して理論計算を行い、coupling, エネルギー差、伝導度と3つのパラメータを実験値と比較することで、Hがbridgeサイト、Mがhollowサイト、Lがatopサイトに帰属された。SERS強度とI-V計測の関係性を検討した所、BDT単分子が特定のBridgeサイトに吸着した時だけSERSが観測されることが明らかとなった。逆に言えば、SERSが観測された単分子接合では、吸着サイトはBridgeである。サイト選択的な分光法の開発に初めて成功した。同時計測によりSERS強度とcoupling強度の間に、よい相関があることが明らかになった。Bridgeサイトでは金属と分子の間の波動関数の重なりが大きい。従って、光誘起の電荷移動遷移が促進されるためSERSが化学効果により増強され、Bridgeサイトが選択的に観測されたと考えている。 また開発したdirectπ-binding法および単分子接合の分光法を用いて、単分子素子の開発にも成功し、その機能発現機構を解明した。
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