研究課題/領域番号 |
24245035
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大友 明 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (10344722)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 磁性材料 / 光化学機能 / 超構造薄膜 / 電気・磁気デバイス / 元素戦略 |
研究概要 |
本研究では、原子配列構造によって制御可能な遷移金属間の電荷・スピン・軌道の相互作用と、それらに起因する輸送特性、磁性、光学特性の相関を明らかにすることを目的とする。平成24年度は、パルスレーザ堆積装置を立ち上げ、主として非平衡薄膜成長プロセスを利用したオーダー相の合成と磁性および光化学活性などの基礎物性評価に注力する研究計画を立てこれを実施した。その結果、以下のことを明らかにした。可視光応答型光触媒として期待されている酸化鉄(III)(Fe2O3)ベースの混晶をエピタキシャル薄膜で合成し、水分解反応の光アノード特性を系統的に調べた。酸化クロム(III)(Cr2O3)との混晶では、組成に応じて可視光から赤外にかけて光電流が確認された。これは、粉末状の試料で報告されているバンドギャップの組成依存性からは予想できない結果である。単結晶薄膜を用いて詳細な検討を行った結果、モット絶縁体とバンド絶縁体が近接する特異な電子構造と局在スピンの配列構造に起因するバンドギャップの狭帯化を起源とすることを明らかにした。また、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)とルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)のペロブスカイト型混晶系(バルクではランダム相しか得られない)において、高い秩序度を有するオーダー相の薄膜合成に成功した。SrRuO3中ではルテニウムサイトの不対d電子スピンは強磁性的秩序を形成するが、SrTiO3との複構造であるオーダー相では、磁気秩序は消失していることが分かった。さらに金属―絶縁体転移近傍で紫外から赤外に渡る広帯域の吸収バンドを形成できることを明らかにした。これらの遷移金属酸化物の半導体光電極特性を詳細に解析し、得られた知見をもとに高効率・高活性の光触媒材料の開発指針を検討することは大変意義深いと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載した平成24年度研究計画通りに進んでいる。研究計画は以下の通りである。 初年度は、主として試料合成と基礎物性に注力する。固相合成法によるバルク多結晶体の作製からスタートし、ランダム相の結晶構造、磁性および光化学活性について明らかにする。2つの遷移金属の価数を同時に制御することが困難な組み合わせについては、単相のバルク試料として得られないと予想される(特にVを含む化合物)。本研究では、オーダー相の物性を明らかにすることが主たる目的なので、非平衡薄膜成長プロセスを利用したオーダー相の合成と評価に注力する。得られた焼結体試料は、薄膜試料合成の原料として使用する。薄膜試料の合成はパルスレーザ堆積装置を用いる。装置設計から設置・立上げまでを9月末までに終了する。パルスレーザ堆積装置に設置する高速反射電子線回折法を用いて成長その場観察を行うとともに、成長室中での酸素アニール時や冷却時の結晶構造の変化を調べる。酸素分圧と成長温度をパラメータとしてX線回折による秩序度をマッピングし、自発的なオーダー相形成に好適な合成ルートをピンポイントで探り当てる。価数の制御が比較的容易な周期律表で隣り合う組み合わせ(V/Cr、Cr/Mn、Mn/Fe)から合成を開始し、順次その他の組み合わせの合成に移行する。薄膜(オーダー相)の結晶構造、磁性および光化学活性について明らかにする。以上の実験は所属機関の助教(連携研究者)および大学院生2名(実験補助)とともに実施する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、引き続き材料範囲を拡げてこれまでの実験を継続するとともに、低温磁気伝導特性を評価するシステムの導入・立上げを行う。得られた薄膜(オーダー相)に対して、電極端子を形成するための微細加工プロセスを確立する。導入したシステムを用いて電気二重層トランジスタ構造(後述)の磁気伝導特性を系統的に調べる。また、組頭広志教授グループ(高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所)と連携して、放射光光電子分光法により試料の価電子帯構造を評価する。加えて、マクロな磁化特性と原子サイトのスピン配列構造を関連付けて磁性の起源を解明することを目的に、藤森淳教授グループ(東京大学大学院理学系研究科物理学専攻)と連携してX線磁気円二色性スペクトルを測定する。これらの測定により、価電子帯の電子構造と各遷移金属サイトのスピン磁気モーメントを定量的に評価することが可能になる。光学・磁気・電気的特性を包括的に検証し、原子配列構造に起因した3d遷移金属間の電荷・スピン・軌道の相互作用と、それらに基づく輸送特性、磁性、光学特性の相関を明らかにすることで研究全体を総括する。
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