研究実績の概要 |
我々は、反応基質として2-アントラセンカルボン酸(AC)を、不斉反応場として各種血清アルブミン(SA)を用いた不斉環化光二量化反応系を中心に詳細な検討を報告してきた。その結果、SAが有効な超分子不斉反応場として機能することを明らかとした。しかしSAには、会合に起因する低水溶性や、適応可能な基質の種類が限定される等、改善すべき問題点も存在する。 本研究では、水溶性の向上や会合特性の抑制、さらには適用基質・反応の拡大などを実現する新規不斉反応場構築を目指し、親疎水のバランスに優れた表面修飾法として広く知られているポリエチレングリコール(PEG)を用い、これまで基底状態での相互作用等を詳細に検討してきたHSAをスカッフォールドとした新規不斉反応場構築に取組んだ。 SAをスカッフォールドとするPEG化不斉反応場の構築には、HSAのリジン残基の1級アミノ基に対するPEG修飾を検討した。PEG化には末端をスクシンイミジル基で活性化した市販の一本鎖PEG化試薬(sc-PEG, Mw = 5,000)と、グルタルアルデヒド基で片末端に反応性を付与した二本鎖PEG化試薬(ga-PEG, Mw = 2,500 × 2)の2種類を用いた。sc-PEGを用いた修飾の場合には1級アミノ基からアミド基へ変換されるためHSAの高次構造や、ACとの結合挙動への影響が観測された。一方、ga-PEG修飾の場合には1級アミノ基から環状3級アミノ基へ変換されるためHSAの高次構造への影響は観測されなかった。PEGHSAを不斉反応場としてACの超分子不斉光環化反応を検討したところ、未修飾HSAよりも効率よい反応場として機能することが明らかとなった。以上の結果より、生体高分子を足場として活用したPEG修飾による新規超分子不斉光反応系構築に成功した。
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