研究課題/領域番号 |
24245046
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
金谷 利治 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (20152788)
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研究分担者 |
西田 幸次 京都大学, 化学研究所, 准教授 (80189290)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 非平衡中間体 / 流動誘起結晶化 / 中性子散乱 / 放射光X線散乱 / J-PARC / SPring-8 |
研究実績の概要 |
結晶性高分子では、ナノメートルサイズの結晶からマイクロメートルスケールの球晶構造が作り出す高次構造が存在し、それが物性に大きく影響することが知られている。そのため、どのようにして高次構造が生成するのかを明らかにし、それをコントロールする方法を見出すことは極めて重要である。我々は結晶化誘導期にスピノーダル分解構造形成に代表される「非平衡中間相」を経由する新たな結晶化機構を見出し、非平衡中間相を経由した結晶性の高分子は従来とは大きく異なった物性を持つことを示した。これらの研究をもとに、本研究ではスピノーダル分解構造だけでなく、種々の非平衡中間体が生成する条件を見出し、そこから生成される新たな結晶性高分子の高次構造とその生成機構を明らかにすることで、新規物性を持つ高分子材料の開発指針を示し、産業応用への基盤構築を目指している。 本研究の過程で、ポリエチレンテレフタレートやブリブチレンテレフタレートが容易に非平衡中間体を生成することがわかってきた。これらの高分子についてレーザー延伸の方法を取り入れ、繊維形成過程の非常に早い段階で非平衡中間体を生成させることに成功した。これは、SPring-8にレーザー延伸装置を持ち込みin-situ測定により初めて検証することができた。これにより、繊維中の高分子鎖の新たな配向制御方を確立できるみ見通しがたち、現在その条件を探索中である。流動誘起結晶化については、H27年度はJ-PARC MLFでの中性子散乱実験を予定していたが、2回の中性子標的の不具合により、実験が実施できなかった。代わりに韓国のHANAROで行った中性子散乱実験の解析を進め、流動結晶化における非平衡中間相形成における分子量の効果を明らかにしつつある。また、Spring-8のマイクロビームによる流動誘起非平衡中間体の内部構造の研究も進展している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までは、J-PARC MLFの中性子散乱施設の不具合により、流動誘起結晶化における非平衡中間体の研究が遅れていた。H27年度も2回の中性子標的の不具合があったが、韓国のHANAROでの実験により遅れを取り戻すことができ、現状では概ね順調に進展している。また、ポリエチレンテレフタレートやブリブチレンテレフタレートが容易に非平衡中間体を生成することを見出し、そのレーザー延伸により繊維形成のごく初期に配向した非平衡中間体の生成が確認できたことにより配向制御方を確立できるみ見通しができたことは大きな進歩である。同時に通常の融点以上の温度での流動誘起結晶化の初期過程における非平衡中間体の内部構造がSPring-8のマイクロビームの利用により明らかになりつつあるのも大きな進展と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究により、高分子の種類により非平衡中間体が生成しやすいものやしにくいものがあることが明らかにすることができた。一言で言えば、どの程度の剛直さを分子鎖内に持ち、かつ流動などによるその配向の制御がいかに容易であるかが、鍵を握る。今後は、この条件をできるだけ定量的にまとめると同時に、残された流動結晶化の中性子散乱実験を実行することにより、流動誘起非平衡中間相の生成における分子量の役割を明らかにする。また、流動隆起非平衡中間相の内部構造の解明も大きな問題であり、SPring-8のマイクロビームの実験をより強力に進める予定である。
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