研究課題/領域番号 |
24246002
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大兼 幹彦 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50396454)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | スピントロニクス |
研究概要 |
L10-MnAl合金薄膜を作製し、薄膜作製時の基板温度および成膜後の熱処理温度を系統的に変化させて構造解析、磁気特性、表面平坦性の評価を行った。MnAl薄膜は超高真空マグネトロンスパッタ法にて作製した。また、薄膜作製用のターゲットとして、焼結、溶融の二種類の方法で作製したものを用いた。焼結ターゲットを用いた場合、基板温度300℃以上において1×107erg/cc程度の垂直磁気特性を有するMnAl薄膜を得ることができた。しかし、表面ラフネスは2nm以上と大きかった。一方、溶融ターゲットで作製した場合、基板温度を200℃まで低減しても垂直磁気特性を有するMnAl薄膜が得られた。基板温度250℃において、当初目標としていた、1×107erg/cc程度の垂直磁気異方性と0.2nm程度の表面ラフネスを兼ね備えたMnAl薄膜が得られた。また、得られたMnAl薄膜を用いてポンプローブ法による磁気緩和測定を試みたが、十分なS/N比が得られず、磁気緩和定数を評価することは出来なかった。しかし、強磁性共鳴(FMR)法を用いて磁気緩和を評価することに成功し、0.006という小さな磁気緩和定数が得られた。また、第一原理計算の結果からMnAl薄膜の磁気緩和定数は0.005程度であり、実験結果と良い整合性が得られた。 CPP-GMR素子については、今年度前半は微細加工プロセスの確立を目指して実験を行った。その結果、GMR素子中の下部強磁性層までArエッチングを行うことで、安定な素子特性が得られ、歩留まりが劇的に改善された。さらに、熱処理温度,膜厚などの条件を最適化したCo2MnSi電極CPP-GMR素子において、室温で80%の磁気抵抗比が得られ、当初の目標を達成することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標は、①L10-MnAl合金薄膜において、1×107erg/cc以上の高い磁気異方性定数と、平均表面粗さ0.2 nm以下を達成する、②L10-MnAl薄膜の磁気緩和定数を評価する、③CPP-GMR素子の作製条件等を最適化し、80%の磁気抵抗比を観測する、④CPP-GMR素子においてスピン注入磁化反転を観測することであった。 L10-MnAl合金薄膜の作製については、作製条件を系統的に変化させ、丹念に物性評価を行った。その結果、24年度の目標としていた、1×107erg/cc程度の垂直磁気異方性と0.2nm程度の表面ラフネスを兼ね備えたMnAl薄膜が得られた。また、磁気緩和定数の評価についても、磁気光学効果を用いての測定はできなかったが、強磁性共鳴を用いて評価することができた。その結果、L10-MnAl薄膜の磁気緩和定数は0.006と小さいことを明らかにした。さらに、得られた磁気緩和定数は第一原理計算の結果と良い一致を示すことが分かった。 CPP-GMR素子については、微細加工プロセスを改善することで、劇的に素子特性が安定し、歩留まりを向上させることに成功した。また、Co2Fe0.4Mn0.6Si組成のホイスラー合金を用いたCPP-GMR素子において、膜厚および熱処理条件を改善することで、目標としていた80%の磁気抵抗比を得ることに成功した。この磁気抵抗比は、CPP-GMR素子において世界最高の磁気抵抗比である。また、スピン注入磁化反転については、磁化反転の観測には至らなかったが、電流による反転磁界の減少効果は見られており、ホイスラー合金膜厚の低減によって、この目標は達成できる見込みが得られている。 ①~③の目標については目標達成、または、目標を超える成果が得られており、④についても達成の見込みが得られている。以上より、研究は概ね計画通り進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目的は、10ナノメートル以下の超微少サイズで利用可能な磁化の熱揺らぎ耐性を有しつつ、かつ、高出力および超低消費電力動作を実現するための、L10合金/ホイスラー合金積層電極を用いた面直通電型巨大磁気抵抗(CPP-GMR) 素子の創製である。24年度において、MnAl単層膜において、垂直磁気異方性定数が1×107 erg/cc以上、磁気緩和定数が0.01以下となる高性能材料を得ることには既に成功した。さらなる目標として、高出力および超低消費電力動作のために、CPP-GMR素子において、室温における磁気抵抗比100%以上、および、スピン注入磁化反転電流密度1×106 A/cm2以下を実現することを目標に掲げている。25年度は、24年度に最適化したMn系垂直材料上に、Co2FexMn1-xSiホイスラー合金層を積層する。Co2FexMn1-xSiホイスラー合金層の組成、熱処理温度がパラメータであり、最適化を図る。また、Co2FexMn1-xSiホイスラー合金を薄膜化し、2 nm程度まで規則構造を維持することが、最終目標達成のために必要不可欠である。また、24年度に課題として残った、スピン注入磁化反転を観測するためにも必要である。薄膜化のためには、組成が重要であることが予備実験で分かっており、本研究ではFe組成を調整することで薄膜化を目指す。また、ホイスラー合金の原子規則度と磁気緩和の大きさは密接に関係があると考えられており、種々の熱処理温度で作製した試料の磁気緩和を評価することで、原子規則度と磁気緩和の関係を明らかにする。25年度中に、MnX(2 nm)/Co2FexMn1-xSi (2 nm)積層膜において、目標としている、1×107 erg/ccの磁気異方性と0.01以下の磁気緩和定数を実現する。また、CPP-GMR素子の磁気抵抗比の向上も継続して行う計画である。
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