研究課題/領域番号 |
24246009
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
尾崎 雅則 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50204186)
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研究分担者 |
藤井 彰彦 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80304020)
吉田 浩之 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80550045)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2016-03-31
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キーワード | 有機薄膜太陽電池 / 有機半導体 / 液晶 / フタロシアニン |
研究概要 |
極めて高いキャリア移動度を示す液晶性フタロシアニンのキャリア輸送機構を解明し、塗布成膜可能な高移動度有機半導体の液晶性を積極的に活用した分子設計指針の普遍性を検証するとともに、この材料を用いて、一般に塗布成膜が難しいと見なされてきた低分子を用いて、印刷プロセスにより、高効率バルクヘテロ接合型有機薄膜太陽電池を実現することを目的として研究を進め、以下の成果を得た。 (a)液晶性高移動度材料の配列構造と伝導機構解明:液晶性フタロシアニンの合成ルート及び精製法の改良を検討し、高純度材料の合成法を確立すると共に、コアに金属をもつ材料を含む同族列フタロシアニンを合成し、その熱物性評価を行い液晶相の熱安定性を明らかにした。同コア骨格であるが、配向状態は置換基などに強く依存し、しかも同一物質においても構造多形を示すことを見出した。TOF法によるキャリア移動度の評価を行い、同族列の液晶性フタロシアニンのキャリア移動度とその温度依存性を測定し、何れも高移動度を示すことを明らかにした。また、液晶性フタロシアニン薄膜中の励起子拡散長を蛍光消光法により求めた。 (b)液晶性フタロシアニンを用いた太陽電池の最適化:太陽電池特性の活性層膜厚依存性、活性層薄膜作製における塗布用溶媒依存性を調べ、溶媒蒸気圧と膜質の相関性を明らかにした。スピンコート溶液に添加剤を導入することにより、ミクロ相分離構造を変化させ、太陽電池の変換効率を3.1%から4.1%に向上させた。また、非液晶性のフタロシアニン誘導体を用いた太陽電池素子の作製において最適化を行い、液晶性のフタロシアニン誘導体を用いた場合と特性の違いと混和性について明らかにした。 さらに、各種フラーレン誘導体とのバルクヘテロ構造を作製し、0.97Vの起電力を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、当初研究実施計画において、(A)液晶性を有する高移動度材料の配列構造および伝導機構の解明、(B)多成分液晶の混和性と相分離特性を活用した物性制御と新規機能探索、(C)フタロシアニンベースバルクヘテロ構造の構築と最適化の三つの項目に沿って研究を実施してきた。(A)に関しては、コア部に金属を含む材料、アルキル側鎖長の異なる材料などの同族体を種々合成し、その熱物性と構造の検討を行い、何れの構造においても高い移動度を示すことを確認し、ノンペリフェラル構造が高移動度の発現において重要であることを確認した。さらに、カラム構造内の液晶分子のスタックの仕方が極めて重要であり、これまで報告されているものとは異なる可能性を示唆する結果も得ており、今後の展開に繋がる状況にある。以上より、(A)の項目は概ね計画を達成している。 (B)に関しては、コアに金属を含むものと含まないものとを混合し、熱サイクルに対する構造安定性について検討を行った。また、アルキル側鎖の長さの異なる材料を混合した材料に用いて実際の太陽電池を作製し、単一材料を用いた場合に比べて良好な効率が得られる知見を得ている。以上の結果は、液晶性フタロシアニンに特徴的な特性であり、太陽電池特性の性能向上に極めて重要あることが確認でき、当初計画を達成できているものと考えている。 (C)に関しては、太陽電池の構造最適化、プロセス条件最適化、添加材の使用などによりエネルギー変換効率を大幅に改善することに成功している。特に、溶媒効果における結晶子サイズの検討や、励起子拡散距離の評価により、効率向上に最適なバルクヘテロ構造のモルフォロジーの最適化に関する知見も得られており、当初の計画以上の成果が得られていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記研究達成度評価においても述べたように、当初研究計画は、概ね順調に達成されていると考えている。特に今後は、(A)に関しては、高移動度化において極めて重要であることが明らかとなってきた、ノンペリフェラル材料のカラム内での分子パッキングについて、分子動力学計算からの知見とのすり合わせを進めるとともに、微小領域X線構造解析や単結晶X線構造解析などの新たな手法による研究の展開が必要であると考えている。(B)に関しては、液晶に特徴的な混和性の検討が極めて有効である知見を得ていることから、今後さらに、コア構造の異なる材料、アルキル側鎖長の異なる材料、さらに、電子状態の大きく異なるチオアルキル側鎖を有する材料との混合材料を検討し、混和性による有機半導体の電子状態制御の可能性をさらに検討していく。(C)に関しては、作製プロセスの最適化により変換効率の向上を図ることに成功した成果を踏まえ、チオアルキル側鎖やナフタロシアニン骨格を有する材料など、吸収波長範囲の増大を図った新規材料の活用の検討する。特に、(B)における混和性を活用した材料組み合わせの最適化の検討などを行っていく必要がある。さらに、液晶性フタロシアニンとの相性の良いアクセプター材料の探索も視野に入れた材料検討を進めていく必要がある。
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