研究課題/領域番号 |
24246014
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
富取 正彦 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 教授 (10188790)
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研究分担者 |
高村 禅 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 教授 (20290877)
笹原 亮 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 助教 (40321905)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 表面・界面物性 / 走査プローブ顕微鏡 / ナノコンタクト / 物性実験 |
研究概要 |
走査型プローブ顕微鏡(SPM)を基礎にした手法(ペンシル型SPM、電圧印加非接触原子間力顕微鏡/分光法(Bias nc-AFM/S))を発展させ、探針―試料間隔を制御し、両者間の状態を「トンネル障壁介在状態、化学結合が形成され始める疑似接触、ナノ接触、加圧接触、引上げ伸展、破断」へと推移させる。探針と試料間には、間隔に応じてpNの極微引力から圧力換算で1GPaの高圧が発生し、独特なナノ接合界面や組成分布を持つ構造ができる。これらの形成過程、表面・界面の結合・界面準位などの電子状態の変化を“その場”でSPM技術を利用して解析する。探針と試料の素材を半導体・金属・酸化物・分子と換え、接触の加圧方法、温度を変化させる。この成果を、オーミック接触、ショットキー接触、pn接合、MOS接合など、微小機械電気素子の構築に重要なナノ接合界面(電極・接合部)の形成・制御技術に繋げる。 本年度は、探針と試料の間隔を高精度制御するために、また、試料面内方向の位置精度を高めるために、熱振動・ドリフトを抑制できる極低温クライオスタットを導入し、それを装着できる超高真空チャンバーを設計・導入し、基本動作を確認した。第1段階として、探針を精確に調製・評価するための電界イオン顕微鏡(FIM)を導入し、それに合わせたSPM機構を次年度に開発する。 SEM―SPMを利用し、Si片を加熱してW探針の先端を接触させたところ、ウィスカー状結晶が多数成長した。また、Si上のπ共役分子DAT、酸化物(TiO2)電極上のLi原子、炭酸プロピレン、OH、H2Oの吸着状態を原子レベルで調べ、電子・エネルギーデバイスの界面特性の基礎情報を得た。さらに、探針―試料間で起きると予想される電荷移動を捉えるために、チャージアンプによる電荷分布SPM測定法を考案し、テストした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、まず既設の装置・手法の発展を期し,極低温に冷却して実験するための装置試作を進めた。市販の極低温クライオスタットを導入し、それを装着できる超高真空チャンバーを設計・導入した。簡易ベークでの真空テスト(1×10の-9乗 Torrを達成)および液体Heによる冷却テスト(5.1 Kを達成)を終え、目標を達成した。現在、内蔵させるFIM機構部の設計を終えて部品が仕上がり、組み立てに入るところである。 極低温装置の開発と同時に、SEM―SPMを利用した実験を進めた。小型のタングステン(W)フィラメントを装着し、それに取り付けたSi片を加熱した。フィラメント温度1400℃以上に加熱した様子をSEMで観察した。しかし、Si片を融解させるには至らなかった。加熱したSi片にW探針の先端を接触させたところ、Si片の一部が探針先端に移動した。また、加熱部、および、探針先端のSi片の表面にウィスカー状結晶が多数成長した。SPM探針としての応用も期待できる。組成分析の結果、タングステン・シリサイドであると推定できた。近接させた部位間でS蒸気の授受によって成長したと推定され、成長条件の把握を進めている。また、他の試料系として、Si上の水素原子、π共役分子DAT(両末端がNH3で終端されたターフェニル分子)の配置状態、酸化物(TiO2)電極上のLi原子、炭酸プロピレン、OH、H2Oの吸着状態を原子レベルで調べ、電子・エネルギーデバイスの界面特性の基礎情報を得た。とくに、TiO2表面のSiO2超薄膜成長と親水性の相関を見出し、酸化物のナノ接合に新しい知見を得た。さらに、探針―試料間で起きると予想される電荷移動を捉えるために、チャージアンプによる電荷分布SPM測定法を考案し、テストした。その結果、ケルビンプローブ力顕微鏡(KPFM)に相当する高速解析法になる可能性を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
SPM技術のキイは、利用する探針をいかに先鋭にして維持するか、また、その先端の電子状態をどう制御するかに掛かっている。その意味からFIMによる探針評価は有効である。とくに、FIM像は低温で分解能が向上するので、極低温SPMとの複合化の相性は良い。また、W探針の先端にCO分子を吸着させると、ペンタセン分子の骨格の高分解能AFM像が得られたとの報告もあり、FIMによる探針評価と合わせる意義は高い。このような良く規整された探針での実験がこの分野の新たなブレークスルーをもたらすと予想する。この探針を試料に接近させ,精緻に試料に接触させ、その後に探針先端の変化をFIMで捉えることによって、接合形成に関する原子スケールの情報を得る。 SEM―SPM複合器による実験では、SPM機構部の操作性の向上、真空度の向上もめざす。超高分解能SEMではAu粒子での0.5nmの分解能を保証しているが、その高性能を支えるために、インレンズ方式の試料空間を極めて狭く制限している。SPMの設計を検討し、接触実験の精度を向上させる。同時に、SEM装着用SPMホルダーからの脱ガスを抑制し、SEMの検出器との相対位置の最適化を図り、SEM像の分解能を向上させる。このホルダー内部での加熱機構の発熱量を増大させ、Siでも融解できるようにする。Siは半導体として基本的な材料であり、研究成果の波及効果の拡大を狙う。 本研究を進展させて、光触媒材料として注目を集めているTiO2を基板として、酸化物材料の電池応用に重要な界面の評価を合わせて進める。表面の電荷状態を調べるチャージアンプによるSPM同時測定を行い、表面のイオン、分子がもたらす電荷移動・接触電位差の精密測定を進める。試料と探針との接触によって、どのような電荷移動が起きるのかを捉える。
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